意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
消費税増税を柱とする社会保障・税一体改革関連法は、10日の参院本会議で採決され、民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決、成立した。現行5%の消費税率は平成26年4月に8%、27年10月に10%へ2段階で引き上げられる。(産経新聞 8月10日23時16分配信より)
消費税増税法案が可決されました。2014年4月は8%、2015年10月には10%の税率が課せられるようになります。
消費税の税率が変わると、たくさんのシステムが影響を受けることが予想されます。今回は、「消費税率の変更が及ぼすシステムへの影響」を考察します。
消費税は消費者が負担する税金であり、企業は単に消費者から預かっているにすぎないため、負担すべき部分はありません。そのため、消費税率が変更になっても、企業の損益には直接的な影響はありません。
第13回「自分が払った消費税、どうやって納められているの?」で例に挙げたラーメン屋に再び登場してもらい、税率変更が及ぼす影響を見ていきましょう。
●消費税が5%の場合
現在の消費税率は5%で、ラーメン屋は製麺業者から200円(税込み210円)で仕入れ、客に800円(税込み840円)で売ります。消費税については客から受け取った40円と製麺業者に払った10円の差額である30円を納付します。
収支:840円(客より)−210円(製麺業者より)−30円(消費税)=600円
●消費税が8%の場合
消費税が8%になった場合はどうなるでしょうか。
製麺業者への支払いは税込み216円で、客には864円で売ることとなります(実際には10円未満の支払いはなくなるかもしれませんが)。そして、客から受け取った64円と製麺業者に払った16円の差額である48円を消費税として納付します。
収支:864円(客より)−216円(製麺業者より)−48円(消費税)=600円
収支は、消費税が5%の場合と同じ600円です。このように、企業から見ると、消費税は単に消費者である客から預かったものであるため、もうけに直接的には影響しません。
●消費税が8%だけど、値上げしない場合
消費税が上がっても販売価格を同じにするお店の場合は、実際には消費税分だけ値下げをしていることになります。
ラーメン屋さんが、税率が5%から8%に変わっても、840円のままで販売しているとします。この場合、店は840円のうちの消費税8%分に相当する金額(840×8÷108=62円)を客から受け取っていることになります。客から受け取った62円と製麺業者に払った16円の差額である46円を消費税として納付します。
収支:840円(客より)−216円(製麺業者より)−46円(消費税)=578円
600円の収支に比べて、22円少なくなっています。これが、販売価格を据え置いた場合の値下げ分になります。この場合には、もうけに影響が出てきています。
次は、本題の「システムに与える影響」です。
どんなシステムでも、金額入力は、「税込み金額」か「税抜き金額」かです。大半の会社は売り上げや仕入れを税抜き金額で計上します(税抜経理と呼ばれる。第13回参照)。
そのため、最も影響が大きくなるのは「税込み←→税抜み」の変換部分です。
例えば、「税込105円」という入力を「税抜100円」に変換する際には、105分の100を乗じることになります。消費税率が8%になれば、税抜にするためには、108分の100を乗じることになりますから、そのロジックが変更されるでしょう。
また、消費税率が一時的に混在することになる可能性があります。まだ詳細は確定していないのですが、リース取引は契約締結時の税率が引き継がれる可能性があります。そのため、どの税率を適用するかを選択・保持できる仕組みが必要となります。
最後にシステム別の簡単な影響度一覧を載せておきます。各企業の環境によって、大きく変わってきますので、参考程度にご覧ください。
システム | 影響度合 |
---|---|
販売管理 | 業務内容によるが、大抵の場合は影響有 |
購買管理 | 影響有 |
会計 | 影響有 |
人事 | 影響無 |
給与 | 基本給や残業手当は課税されないため、 立替経費・交通費に関しては影響有 |
固定資産 | 影響有 |
生産管理 | 在庫単価は税抜金額であることが多く、 影響は少ないと考えれられる |
連結 | 影響無 |
消費税の増税について、見てきました。
企業のもうけには直接的な影響はないと書きましたが、消費者から見ると値上がりになるため、売れ行きが落ちたり、消費税分を企業が負担することがあったりして、結果的には悪影響を及ぼすと考えられています。それではまた。
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吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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