意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど。すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
「トヨタの株主総会は愛知県豊田市の本社で開催された。渡辺社長が平成21年3月期の連結最終損失が4369億円の赤字に転落したことなどを報告。「株主の皆さまにご心配をおかけし、結果として申し訳なく思っている」と、約4000人の株主の前で謝罪した。年間配当額は前年同期比40円減の100円。トヨタの減配は、決算期変更に伴う特殊要因があった平成7年3月期を除けば上場以来初めて。役員賞与(ボーナス)はゼロにした」(MSN産経ニュース 2009年6月23日の記事より抜粋)。
2009年3月期の決算に赤字となった企業は少なくありません。上述のように、トヨタ自動車も14年ぶりの連結最終赤字に転落しました。しかし、利益が出ていない以上、株主に対する配当がなくなってしまうかというと、そうとは限りません。実際に、トヨタ自動車は平成21年3月期に年間で1株100円の配当を行っています。一体、何を源泉として配当できたのでしょうか。今回は配当について解説します。
そもそも、配当とはどういったものなのでしょうか。それを明らかにするために、株式会社の構造について、簡単に触れておきます。いま、トヨタ自動車の株式を購入するとします。株式を購入することで株主となることができますが、株式は借金とは異なり、基本的には返済義務のあるものではありません。株主は、株価が高ければ転売して利益を出すことができますが、株価が低ければそれもできなくなってしまいます。そうなると、株主が株式を購入するメリットを感じられなくなります。そこで、配当が行われます。配当は、株主に出資してもらったおかげで得ることができた利益を還元する手法です。なお、ここでいう利益は当期純利益(参考:「損益計算書に登場する5つの利益」)です。
ここで、会社が100の当期純利益を計上したからといって、100すべてを配当することは、まずありません。利益の全額を配当してしまうと、景気の低迷期が訪れたときに資金繰りに行き詰まり、一気に倒産してしまうかもしれません。また、得られた利益によって工場を拡張し増産体制を整えれば、さらにもうけることができるかもしれません。企業によって理由はさまざまですが、諸条件を考慮することで、例えば配当は40にして残り60は会社に残すこと(内部留保)ができます。
企業が得た利益を配当に回さず、将来の蓄えやさらなる投資に振り向ける目的で留保すること
トヨタ自動車は今期こそ当期純損失を計上していますが、前期まで順調に利益を重ねてきた結果の内部留保が残っているのです。内部留保は、貸借対照表上の純資産の部の「利益剰余金」という科目に累積されていきます。簡単にいうと、利益剰余金は純利益によって増加し、配当によって減少します(ほかにも利益剰余金の増減要因はありますが、ここでは省略します)。
トヨタ自動車の利益剰余金は平成21年3月期において連結ベースで11兆円と潤沢にあるため、これを源泉として配当を行うことができたのです。ただし、当期純損失により利益剰余金は減少しているので、配当を行うことによって利益剰余金はさらに減少します。剰余金がなくなると、配当を行うことができなくなってしまうので、トヨタ自動車といえども毎期赤字では配当が続けられるわけではありません。
さて、株主の立場からすると、早く投資の見返りを得たいと考えれば、得た利益は早く配当に回してほしいと考えるでしょう。そういった株主が注目する指標が「連結配当性向」です。連結配当性向を見れば、利益のうちどれだけを配当に回しているかが分かります。連結配当性向は“配当額÷当期純利益”で算出されます。先ほどの例のように、40を配当、60を内部留保とした場合、連結配当性向は40%となります。この連結配当性向は、企業の配当政策を説明するうえで代表的な指標となっています。
トヨタ自動車の場合には、平成21年3月期は当期純損失を計上しているため、連結配当性向を算出していませんが、平成20年3月期には25.9%になっており、将来的には30%を目標とするとしていました(平成20年3月期 有価証券報告書の配当政策の項を参照)。平成21年3月期の有価証券報告書では、該当の記載は削除されており、トヨタ自動車が配当についての政策をどのように打ち出していくかについては、今後注目されるところです。
取引先や勤め先の決算書を見るに当たっても、内部留保(利益剰余金)は重要です。利益剰余金を見ることで、過去の利益の積み重ね・蓄えがどのくらいあるかを知ることができます。ただし、蓄えがあったとしても、資金化できず、資金繰りに行き詰まり、倒産するケースがあります(参考:「黒字倒産が起きるわけとその対策」)。決算書はさまざまな側面から見なければなりませんが、内部留保も重要なチェック項目の1つととらえておけばよいですね。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。
イラスト:Ayumi
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