意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
みずほフィナンシャルグループは8日、子会社を含めた168人の取締役や執行役員にストックオプション(新株予約権)を付与したと発表した (日本経済新聞電子版 2011年12月8日より)
「ストックオプション」は、社員や役員のモチベーションを上げる制度として、多くの企業が採用しています。株式会社制度などと比べると新しい概念であるためか、IT業界やベンチャー企業がよく採用しているようです。福利厚生欄で「ストックオプション」を見かけたことがあるというエンジニアは多いのではないでしょうか。
そこで今回は、ストックオプションの仕組み、そしてこの制度がなぜ社員・役員のモチベーションアップにつながるのか、その理由を解説します。
「オプション」とは、一定期間において、ある値段で取引ができる権利のことです。ストックは英語で「株式」という意味。つまり、ストックオプションとは「株式をある値段で購入できる権利」のこと。ちなみに、購入せずに権利を放棄することもできます。
例として、2011年12月にA社のストックオプションを1つ付与された社員にどんなメリットが発生するのかを見ていきましょう。
1つあたりの株式数 | 1株 |
---|---|
金銭の支払い | 不要 |
権利行使期間 | 2012年1月〜 2012年12月 |
権利行使価額 | 1株 8万円 |
表1 付与されたストックオプションについての情報 |
2011年10月 | 7万7000円 |
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2011年11月 | 7万3000円 |
2011年12月 | 7万5000円 |
表2 最近の月末株価の推移 |
ストックオプションをもらった人は、権利行使期間中いつでも、勤め先の株式を1株8万円で購入できます。もちろん、権利を放棄することもできます。
最近の月末株価を見る限りでは、ストックオプションを権利行使するのは得策ではなさそうです。なぜなら、市場で購入すれば、7万円台で購入できるのに、権利行使するとそれよりも高い8万円で購入することになるからです。
さて、2012年に株価が8万5000円になるとします。権利行使すれば、株式を8万円で購入できて、すぐに売却すれば5000円得します。
ちなみに、いくら株価が下落しようと、ストックオプションの権利はいつでも放棄できるため、付与者が損をすることはありません。
これがストックオプションの魅力でしょう。もらった人が損しないようになっているのです。
つまり、付与された人は「株価が上がれば得する」状況になります。会社の実績が良ければ株価は上昇するでしょうから、付与された人のモチベーションは向上します。これがストックオプション付与の狙いです。
ストックオプションの採用は、企業側にもメリットがあります。
給与の場合、社員の収入は企業が支払います。ストックオプションの場合、社員に付与しても、企業の直接的な支出はありません。ストックオプションで発生する社員の収入は、企業以外の第三者からのものです。これがストックオプションのメリットであり、企業が採用する理由です。
一昔前までは、企業の支出がないことから費用を認識する必要がありませんでした。しかし近年、会計基準が見直されて、ストックオプションも給与と同じように費用として認識することとなりました。利益が減少するため、以前と比べると企業にとって採用するハードルが上がっていると言えます。
記事では上場企業を前提にお話ししましたが、非上場の企業もよく採用しています。将来、会社が成長して上場すれば、たくさんの報酬がもらえる制度であり、「会社の出世払い」制度とも言われています。
転職を考えているエンジニアは、福利厚生の欄に「ストックオプション」があるかどうか、チェックしてみるといいかもしれません。それではまた。
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吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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