黒字倒産が起きるわけとその対策お茶でも飲みながら会計入門(3)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど。すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

» 2008年11月13日 00時00分 公開
[吉田延史日本公認会計士協会準会員]

今回のテーマ:黒字倒産

 黒字倒産という言葉をよく見掛けます。倒産する会社ともなると、長期間経営が低迷状態にあり、赤字決算が続いていたような印象を持ちますが、実態を見ると、前年決算が黒字だった企業が相当数あります。今回は、もうかっていたのに倒れてしまう、黒字倒産のケースについて解説します。

【1】企業はどうなったら倒産するのか

 企業が倒産する要因はただ1つ、仕入れ先や銀行に対して支払いができなくなってしまう「資金ショート」です。つまり、「借入金や仕入代金を支払うことができなくなった場合」が倒産なのです。

【2】黒字倒産するまで

 実際に黒字倒産のケースを見てみましょう。3月決算のIT企業A社は、販売・生産・会計システムの総合導入を行っています。得意先であるB社から以下のシステム導入の案件を受注しました。

受注内容
提案内容 販売・生産管理・会計システムの全面導入
売上高 4億円
費用 2億8000万円
利益 1億2000万円
売上時期 来年3月

【3】導入作業・販売と資金化のタイミングのずれ

  システム導入では、サーバをハードウェアメーカーから仕入れ、売り上げを計上する(B社検収)まで非常に時間がかかります。

  1. A社は、今年6月にハードウェアメーカーからサーバを仕入れることとします。今年6月から来年3月にかけては、システム導入作業を実施するため、人件費が発生します。
  2. 来年3月にはB社が検収し、A社では売り上げが計上できます。
  3. 売上計上から資金回収までには、おおむね1〜3カ月かかります。この期間は、業界慣行によっても異なります。A社では、相手先検収から3カ月後の、来年6月に資金を回収できるとします。

 つまり、A社が(ハードウェアメーカーから)サーバを仕入れてから、最終的に資金回収するまでには合計1年もかかることになります

【4】資金化のタイミングがキャッシュフローに与える影響

 A社の収入・支出がどのように発生するのかを見てみましょう。

  1. サーバの仕入れと人件費の支払い(今年6月〜来年3月)

 最初に訪れるのは、サーバや人件費などの支出です。今年6月〜来年3月にかけて、すべて支払うとすると2億8000万円の支出が発生します。

  1. 売り上げ(来年3月)

 B社で検収があがると、A社では売り上げが計上できます。しかし、売り上げを計上しても現金収入があるわけではなく、収入は0円です。

  1. 資金回収(来年6月)

 B社の検収から3カ月たってようやくA社は資金を手にします。収入額は4億円ですが、これは6月に手にできるものです。

・当期(〜来年3月)の損益と収支の比較
損益計算
売上高 4億円
費用 2億8000万円
利益 1億2000万円
 
収支計算
収支 0円
支出 2億8000万円
営業活動
キャッシュフロー
△2億8000万円
翌期(来年4月〜)の損益と収支の比較
損益計算
売上高
費用
利益
 
収支計算
収支 4億円
支出 0円
営業活動
キャッシュフロー
4億円

 支出が高額かつ手元に潤沢な資金がない場合、借り入れに頼ることになるでしょう。翌期に4億円回収できる予定ですが、仕様どおりにシステム導入ができず、B社の検収が遅れる可能性もあれば、B社が倒産する恐れもあります。そういったことが発生したとしても、頼った借り入れの返済期日は待ってくれません。再度借り入れが行えなければ、最悪の場合、資金がショートし倒産することになります。これが黒字倒産の例です。

【5】資金ショートしないための資金繰り表

 上記のようなことを避けるために、たいていの企業では資金繰り表、資金計画表を作成し、万一の場合に備えて余剰資金を保持しています。以下は、資金繰り表の簡単なサンプルです。

  4月 5月 6月 ……
営業収入 xxxxxx xxxxxx xxxxxx  
営業支出 xxxxxx xxxxxx xxxxxx  
小計 xxxxxx xxxxxx xxxxxx  
借り入れの実行など xxxxxx xxxxxx xxxxxx  
合計 xxxxxx xxxxxx xxxxxx  

 通常、この先半年〜1年分を予想し、借入計画を立て、賞与や納税・設備投資など大口の支出に備えます。一方で資金繰り表は余剰資金を明らかにし、借り入れの早期返済の可能性を模索するためにも使用できます。

 資金繰り表は、財務数値にもかかわってくるため、財務会計システムと関連付けて導入することが多くあります。ただし、財務報告とは違う目的であることに注意するといいでしょう。

 企業においても「資金繰りは計画的に」ということですね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。

イラスト:Ayumi



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