意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
今回は「固定資産」を取り上げます。
固定資産は、ビジネスの場面でもよく聞く言葉です。具体的にどういった資産が固定資産に該当するのでしょうか。また、固定資産を手に入れた場合には、どのような会計処理が行われるのでしょうか。さっそく見ていきましょう。
固定資産という字面を見ると、「固定されて動かない資産」のイメージが浮かぶかもしれませんね。そのとおり、建物や土地は固定資産なのですが、実際には車やサーバなども固定資産に該当します。
固定資産を簡単に説明すると
「長期間使って、元を取る資産」
です。
上記の建物や土地、車やサーバのいずれも、「長期使用により最初の投資を回収する性質」を持つことが分かると思います。
何が固定資産となるかは、時代によって変わってきます。
例えばPCは、20年ほど前であれば、長期間使うことで元を取る性質があったでしょう。ですが現在は低価格化が進み、すぐに元を取れるようになったので、固定資産とはならないことが多いです。
10万円未満の物品については、少額であることから、何年も使えるものであっても固定資産とはなりません。
固定資産を買ったら、買った値段で固定資産として認識します。具体的には「建物」「機械」「備品」などの勘定科目を用います。建物の場合は、「建てるのに掛かったお金」で認識します。
今回は、大阪城を建てた場合を例に、固定資産の処理を考えましょう。
現代の建築技術で大阪城を建てた場合に掛かるお金は、「現代技術による豊臣期大坂城の復元と積算」(大林組『季刊大林』No.16 「城」)で試算されています。こちらによると、建築工事費は約221億円のようです。
この221億円を、仮に1カ月後にまとめて払うとした場合、仕訳は以下のようになります。
※仕訳については第22回「会計界の洗練されたプログラミング言語――複式簿記」参照。
城(固定資産)221億円/未払金 221億円
城(現代では建物に当たります)という固定資産が増え、同時に未払金という負債が増えます。
城は、時間の経過とともに価値が下がっていきますので、毎年減価償却を行います。
※減価償却については第37回「ゲームと現実の違いは?『桃鉄』で減価償却を考える」参照。
先ほど、「城は時間の経過とともに価値が下がる」と書きました。大阪城も、何度も改修がなされています。改修に掛かったお金は、会計上どのように処理できるのでしょうか。
これについては、2つの考え方があります。
1つは改修をすることによって、そのものの価値が高まったり、耐久性が上がったりする場合です。例えばエレベーターや非常階段の設置は、城の価値を上げる改修です。このような改修に掛かる支出を、「資本的支出」と呼びます。資本的支出は価値の増加であるため、固定資産とします。
例1:大阪城に非常階段を1億円で取り付けた。
建物 1億円/未払金 1億円
もう1つの考え方を見てみます。改修には、古くなったものを取り換える場合もあります。例えば、瓦の取り換えや金箔の塗り換えなどです。このような改修に掛かる支出を、「収益的支出」と呼びます。収益的支出によっても下がった資産価値は戻るのですが、それは原状回復にとどまり、資本的支出のような新たな価値の創出効果はないため、費用とします。
例2:古くなった瓦を1億円で取り替えた。
修繕費(費用) 1億円/未払金 1億円
資本的支出:固定資産に関わる支出のうち、価値の増加や耐用年数の増加をもたらすものをいう。資本的支出は固定資産として認識する。
収益的支出:固定資産に関わる支出のうち、古くなったものの取り換えなどで、新たな資産価値の増加をもたらさないものをいう。収益的支出は費用として認識する。
今回は固定資産について見てきました。
皆さんがこれまでにした中で、一番高い買い物は何でしょうか? 海外旅行でしょうか、それともマンションや車でしょうか。海外旅行などは消費であり資産ではありませんが、マンションや車は、まさに長期間使用して元を取る固定資産です。そういった身近なものをイメージして、固定資産を見ていくといいでしょう。それではまた。
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吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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