輸出企業と輸入企業、円安で得するのはどっちかな?
ここ数カ月で、円が対ドルで大幅に安くなりました。その結果、自動車を中心としたメーカーは増収増益が見込まれています。具体的には円安はどのように決算に影響するのでしょうか。今回は、円安が決算に与える影響について解説します。
ドル建てで取引する輸出企業は、販売代金をドルで回収します。1ドル=100円の時には1万ドルの回収は100万円に相当します。円安で1ドル=110円になれば、1万ドルの回収は110万円に相当して、10万円得することとなります。
企業の損益計算書上、具体的に以下の項目に影響します。
3月決算の輸出企業A社について、以下の例を用いて見ていきましょう。
5月31日(1ドル=100円):B社にA社製品を1万ドルで販売する契約を結んだ
↓
6月30日(1ドル=100円):A社がB社に向けて製品を船に積んで売上計上した
↓
9月30日(1ドル=110円):B社より売上代金1万ドルが振り込まれた
仮に上記取引だけならば、A社損益計算書数値は以下のようになります。
売上高 | 100万円 | 1万ドル×売上日6月30日のレート100円 |
---|---|---|
為替差益 | 10万円 | 売上代金1万ドルは、回収後に円転すれば110万円になるため、当初売上100万円よりも10万円得している。得した10万円は為替差益として表示される |
つまり、売上時までの円安効果は売上高に反映され、売上時から回収時までの円安効果は為替差益に反映されます。その結果、増収増益が見込まれているのです。
今年の為替相場をまとめました。最近特に円安が進行しているのが、分かりますね。
7月末 | 102.78円 |
---|---|
8月末 | 104.05円 |
9月末 | 109.64円 |
10月末 | 112.3円 |
11月末 | 118.2円 |
先の例は、日本の会社が輸出しているケースでした。海外子会社が直接製造・販売している場合も確認しておきましょう。
海外子会社の業績は連結損益計算書に反映されます。具体的には、ドル建ての現地決算書を円に換算して親会社決算書と合算します。換算は1年間の平均レートを用います。
A社の海外子会社B社が作成した現地損益計算書を見てみましょう。
売上高 | 5万ドル |
---|---|
売上原価 | 4万ドル |
売上総利益 | 1万ドル |
販売費および一般管理費 | 7000ドル |
営業利益 | 3000ドル |
1年間の平均レートを100円とすると、換算した損益計算書は以下のようになります。
売上高 | 500万円 |
---|---|
売上原価 | 400万円 |
売上総利益 | 100万円 |
販売費および一般管理費 | 70万円 |
営業利益 | 30万円 |
換算といっても、単純に全てに同じレートをかけるだけです。円安が進むと、子会社損益計算書の売上高や利益にかけるレートが高くなりますから、合算した連結損益計算書にも増収・増益の好影響が出ます。
円安と決算の関係について見てきました。ちなみにドル建てで取引している輸入企業の場合には、マイナスの効果が出てしまいます。そのため全体をみれば、安定的な為替レートになるのがいいとの意見もあります。それではまた。
イラスト:Ayumi
吉田延史著
イラストAyumi
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エンジニアも知っておいた方がいい原価について、基礎知識から業績改善への活用法まで、文章と楽しいで分かりやすく解説します。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピューターの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
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