意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
今回は「固定資産の除却、売却」について解説します。一つの質問からスタートしましょう。
【質問】
あなたは、120万円で新車を買い、3年乗ってから10万円で売りました。10万円で売却して、あなたは一体損をしたと思いますか、それとも得をしたと思いますか。
これは正解のある質問ではありません。会計上の損得はこれから解説するとおり計算できますが、計算結果によって上記の質問に答えられるわけではないのが、固定資産の売却の奥深いところだと思います。そのあたりを、事例に沿って見ていきましょう。
まず、第37回「ゲームと現実の違いは?『桃鉄』で減価償却を考える」で解説している減価償却について復習しましょう。
固定資産のほとんどは、買った時点の価値を維持し続けることはありません。
今回の例に挙げた車も、使えば使うほどエンジン、ブレーキなどのパーツが劣化します。そういった現実を反映させるべく、会計の世界においては決まった計算式を使い、車の資産価値を当初の買値から減少させます。それを減価償却と呼ぶのでしたね。
120万円で購入した車について、仮に耐用年数4年、定額法で減価償却するとします。3年間使用すると、これまでの減価償却の合計はいくらになるでしょうか。
1年間の減価償却費:120万円÷4=30万円
↓
3年間の減価償却費:30万円×3=90万円
仕訳は以下が起票されます。
<買ったとき>
車 120万円/現金 120万円
<1年目の終わり>
減価償却費 30万円/車減価償却累計額 30万円
<2年目の終わり>
減価償却費 30万円/車減価償却累計額 30万円
<3年目の終わり>
減価償却費 30万円/車減価償却累計額 30万円
貸方の「車減価償却累計額」という科目が、車の価値の減少を示します。
買ったときの科目(=「車」勘定)から減価償却費を差し引くことで、価値の減少を示す方法もありますが、高い買い物は金額を確認したくなるときもあるでしょう(皆さんも車やマンションにいくら払ったかを知りたくなるときがあると思います)。なので買ったときの科目はそのままの金額で残しておき、減価償却累計額という別の科目で減少させることの方が多いです。
3年間使用したこの車を、廃車にした場合について考えましょう。話を簡単にするため、廃車に掛かる費用は無視してしまいます。
取得時に掛かったお金は120万ですが、【1】で解説したとおり、3年間乗り続けたことにより、減価償却の合計額90万円が価値の減少として認識されています。
そのため、120万円−90万円=30万円が廃車時の資産価値となります。30万円の価値のある資産を廃車にするのですから、その分を損失として認識します。仕訳は以下のとおりです。
車廃車損 30万円/車 120万円
車減価償却累計額 90万円
さて、冒頭の質問のとおり、この車を10万円で売却した場合を見ていきましょう。
資産価値30万円の車がなくなる代わりに10万円の現金が入ってきますから、売却損は30万円−10万円=20万円となります。仕訳は以下のとおりです。
現金 10万円/車 120万円
車売却損 20万円
車減価償却累計額 90万円
計算では、会計上は売却損という結果になりましたが、実際に損となるか得となるかには、減価償却が密接に関係してきます。
今回は車の耐用年数を4年として計算しましたが、例えばこれを3年と想定したケースを考えましょう。そうすると、120万円÷3=40万円で毎年40万円減価償却されますから、仕訳は以下のようになります。
<買ったとき>
車 120万円/現金 120万円
<1年目の終わり>
減価償却費 40万円/車減価償却累計額 40万円
<2年目の終わり>
減価償却費 40万円/車減価償却累計額 40万円
<3年目の終わり>
減価償却費 40万円/車減価償却累計額 40万円
3年後の車減価償却累計額は120万円、車の資産価値は120万円−120万円=0円です。この車を売却して10万円手に入れた場合、10万円の売却益が出たことになります。仕訳は以下のとおりです。
現金 10万円 /車 120万円
車減価償却累計額 120万円 /車売却益 10万円
車を同じ値段で買って同じように使い、同じ時期・条件で売ったとしても、減価償却の想定次第で、売却損となるか売却益となるかが変わってきます。
今回は固定資産の売却について見てきました。売却は簿記3級レベルですが、私自身は昔簿記を習い始めたころ、「難しい」と感じたのを覚えています。一つの仕訳にたくさんの勘定科目が並ぶためです。
仕訳には「慣れる」しかありません。プログラミングでいうところのfor文やwhile文のようなものです。何度も書いてみてください。それではまた。
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吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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