意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
前回「アプリ開発ビジネスで独立するなら、知っておきたい『所得税計算』」に引き続き、1人ビジネスにおいて必要な税金知識について解説します。今回は「消費税」編です。
まず、消費税に関する○×クイズを出題します。なじみがない方には難しいかもしれませんが、チャレンジしてみてください。
(1)消費税の納税義務は会社だけにあるため、個人に納税義務はない。
(2)給与の源泉徴収は、所得税や住民税だけであって、消費税は課税されない。そのため、源泉徴収されていない。
(3)2年前における、消費税の課税対象となる売上高が1000万円以下であれば、消費税の納税が免除される。
クイズの解答に沿って、1人ビジネスにおける消費税について見ていきます。
クイズ(1)から見ていきましょう。
(1)消費税の納税義務は会社だけにあるため、個人に納税義務はない。
答えは×です。個人でも事業主であれば、納税の義務があります。しかし、納税の義務といわれても、具体的にいつ何を納めればいいのでしょうか。
第13回「自分が払った消費税、どうやって納められているの?」で説明した例を再び用います。この例では、製麺(めん)屋、ラーメン屋、お客さんが登場します。ラーメン屋でお客さんが支払った40円の消費税は、ラーメン屋が30円、製麺屋が10円ずつ消費税を代行納付していましたね。
製麺屋やラーメン屋が、会社としての形態を取らない個人事業主であっても、代行納付する義務はなくなりません。同様に、アプリケーション開発・販売によって個人が得た収入にも、エンドユーザーが支払った金額に5%の消費税が上乗せされています。そのため、原則的には消費税を納付しなければなりません(ただし、例外あり、【3】参照)。
このとき、「自分は請求する時点で消費税を織り込んで計算しておらず、100円のアプリケーションを100円として請求しているから、消費税を預かっていない」と主張することはできません。何も書いていない場合、価格は「消費税込み」と見なされます。この場合、税抜対価は96円であり、4円が消費税相当分であると見なされてしまいます。
個人でビジネスをする際は、1〜12月までの1年を1つの区切りとして、エンドユーザーから預かった消費税を納付します。
次にクイズ(2)です。
(2)給与の源泉徴収は、所得税や住民税だけであって、消費税は課税されない。そのため、源泉徴収されていない。
答えは○です。サラリーマンの給与収入は「事業として行っているものではない」という理由によって、消費税の課税対象取引として扱われません。そのため、サラリーマンとして給与をもらう分は、消費税を納付する必要はありません。もちろん、日々の買い物によって、消費税を「負担」はしていますが、自ら税務署へ行って納付する義務は発生しません。
ここまで読むと、自分は事業で得た所得があるのに、消費税を納付していない! と不安になった方がいらっしゃるかもしれません。そこでクイズ(3)です。
(3)2年前における、消費税の課税対象となる売上高が1000万円以下であれば、消費税の納税が免除される。
答えは○です。事業を始めた年とその翌年は、たとえ消費税を預かっていても、2年前における課税対象となる売上高が0円なので、納税義務はありません。 また、たとえ所得があっても、2年前の1月〜12月の課税対象となる売上高が1000万円を超えていなければ、納税義務はありません。
1年で1000万超、つまり毎月約80万円以上の売り上げがある人だけが課税対象となります。
結局、ほとんどの個人事業主にとっては、消費税を納税する必要はありません。本当は預かっている消費税はあるにもかかわらず、納税の義務が免除されます。これを「益税」と呼びます。
税法によって、納付すべき税額が事業者の手元に残ってしまい、その事業者に利益が出てしまう状況のこと。
消費税は、負担者と納税者が一致しないので、どうしても複雑に思われるかもしれません。事業主はエンドユーザーの負担分を預かっているのであり、預かっているものを税務署に納付しているだけである点に注意するといいですね。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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