意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど。すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
上場企業は、作成した決算書について、公認会計士または監査法人による監査証明を受けなければなりません。しかし、それでも粉飾決算は完全になくならず、世間をにぎわす事件となっているのが現状です。今回は、過去の粉飾決算の事例の中から、とりわけ連結決算書を粉飾するのに頻繁に使われている「連結外し」について解説します。
ここでは、例としてA社という上場企業を考えてみましょう。A社はメーカーで、自社製品を販売していますが、今期は業績が思わしくありません。
社長 「今期は連結ベースで赤字に転落しそうだ。経理部長、なんとか黒字にできないのかね」
経理部長 「それでは、秘密裏に、B社という企業を設立しましょう。B社には社長自らが全額出資していただき、当社からは出資しません。今期売れ残った大量の在庫はすべて、社長のいいなりのB社に販売します。B社はA社からは出資されていないため、連結対象外とします。そうしますと、在庫はすべてB社という外部に販売されたこととなりますから、連結損益計算書上、A社グループに利益が計上できます。これで、今期も黒字です(図1)」
確かに、B社にはA社からの出資はありません。しかし、現在の連結会計基準では、A社からの出資がなかったとしても、A社に協力的な役員(ここではA社社長)が全額出資したB社は、外部ではなく子会社と見なされます。そうすると、B社は自社グループ内の企業であり、自社グループ間の取引はなかったことになりますから(第1回の記事「連結決算って何を連結しているの?」参照)、B社に対する売り上げや利益は連結決算で消去すべきです(図2)。
このように、連結子会社としなければならないB社を、連結対象外として処理することで、自社グループ間取引で連結ベースの利益を捻出する会計処理を連結外しと呼びます。B社を連結外しすることで、A社が作成した連結決算書は粉飾決算となってしまいます。
実際の粉飾決算では粉飾であることが簡単に露見しないよう、さらに手口を巧妙化させます。先ほどのA社の会話の続きを聞いてみましょう。
社長 「しかし、会計基準違反をしてしまっては、われわれは逮捕されてしまう。会計基準に違反しない方法はないのかね?」
経理部長 「それではこうしましょう。秘密裏に新たに、C組合という投資事業組合を投資育成目的で設立し、当社が全額出資します。C組合は、D社に全額投資し、D社の主導権を握ります。今期売れ残った大量の在庫は先ほどと同様、すべてC組合を通して支配しているD社に販売します。C組合は会社ではないですし、われわれA社は投資育成目的でC組合に出資しているため、会計基準上、C組合は子会社には該当しません。つまり、連結対象外とします。すると、C組合の傘下であるD社も連結対象外となります。在庫は、すべてD社という外部に販売されたこととなりますから、連結損益計算書上、A社グループに利益を計上できます」
先ほどのB社の事例は、連結会計基準上、連結対象となることが明記されているため、会計士にすぐに粉飾を指摘されてしまいます。一方、Cは会社ではなく組合であり、投資育成目的という条件がつくと(詳しい解説は省略しますが)連結会計基準上の取り扱いも、B社の場合よりは明らかではありません。
しかし、スキームが巧妙化しても、本質的に支配している企業との取引はすべて自社グループ間の取引として、連結決算書上ではなかったことにすべきです。よって、このケースも連結外しと判断されてしまいます。C組合、D社を連結外しすることでA社が作成した連結決算書は粉飾決算となります(図3)。
ここまで、連結外しの概要を説明してきました。この連結外しを阻止するためのシステムを構築することはできません。なぜなら、連結外しは企業間の資本関係が複雑に絡むため、通常経理部だけで行うことはなく、経営者が中心となって指示するからです。経営者がシステム構築を指示するのですから、自らにとって都合の悪いシステム構築がなされることはありません。
売れ残った在庫を自分が支配している企業に押し付け、決算書をよく見せるなど、ひどい話です。連結外しを見破る一番よい方法は、経営者の性格や価値観をしっかりと見定めることかもしれませんね。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。
イラスト:Ayumi
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