意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
株式会社の最上位意思決定機関。株主に、保有する株式数に応じた票数が与えられ、多数決により決議される
まとめ記事「ITエンジニアとして知っておきたい22の会計知識【簿記レベル編】」で、「簿記試験に関係する知識」に多くの反響がありました。そこで、今回から数回にわたって、本連載でまだ取り上げていなかった簿記3級・2級の試験範囲を解説します。
今回のテーマは「有価証券」です。有価証券のテーマは広く、簿記3級と2級でそれぞれ扱う範囲が異なります。今回は主に、簿記3級レベルの知識を紹介します(一部、簿記2級の範囲も紹介しています)。
日常生活において、有価証券という言葉はなかなか聞きなれないかもしれませんが、簿記試験の勉強をしていると頻繁に登場します。
有価証券とは、その名のとおり「価値のある証券」のこと。代表的なものとしては「株式」と「公社債」があります。
なお、簿記試験では、自社以外の発行する有価証券(株式や社債など)として「有価証券」を取り扱うため、本連載でも簿記試験の扱いを前提とします。
早速、実在する企業を例にとって有価証券の明細を見てみましょう。まずは株式について、少し前に話題になった東京電力の保有株式を取り上げます。
株 式 |
銘柄 | 株式数 | 取得価格 |
貸借対照表計 |
---|---|---|---|---|
KDDI(株) | 357,541 | 221,545 | 184,133 | |
地方債 |
銘柄 | 額面総額 |
取得価額 |
貸借対照表計 |
地方債 | 7 | 7 | 7 |
東京電力株式会社 有価証券報告書 平成22年度(第87期)
【(その4)長期投資及び短期投資明細表】より
まずはKDDI株について、基本的な会計処理を見ていきます。全株式を1回で取得したと仮定した場合、下記のように仕訳します(仕訳については、第22回参照)。資金が減少し、「投資有価証券」という資産が増加します。
上場している株式は証券取引所で売買されるため、株価が変動します。株価の情報は株価サイトなどで容易に入手できるので、決算時には決算日の終値で資産の再評価を行います。
KDDIの場合、2011年3月31日終値の株価は、51万5000円でした。東京電力が持つKDDI株の資産価値は51万5000円×35万7541(株)=1841億3300万円です。
取得時の2215億4500万円に比べて価値が下がっているため、投資有価証券を1841億3300万円になるよう、修正仕訳します。この場合、価値が下がったことによる損を、含み損(売却などによる確定はしていない損)と呼びます。
有価証券の含み損 37,412(374億1200万)/投資有価証券 37,412(374億1200万)
なお、上場していない会社の場合、株価情報を入手できないため、上記のような仕訳は発生しません。決算を終えた翌期には、含み損を2通りの方法で処理します。
(a)洗替法(あらいがえほう)
洗替法では、含み損益を「一時的なもの」と捉え、期首に取得原価に戻します。
先ほど行った仕訳を逆の順序で行うことで、KDDI株は買った当時の金額(2215億4500万)にいったん戻ります。
投資有価証券 37,412(374億1200万)/有価証券の含み損 37,412(374億1200万)
(b)切放法(きりはなしほう)
切放法では、一度認識した含み損益を戻し入れず、期末の株価で会計システム上の帳簿価額を評価します。すなわち、翌期に仕訳は起きず、KDDI株は会計システム上、1841億3300万円で引き継がれます。
さて、KDDIが利益を上げれば、株主は配当金収入を得られます。KDDIの期末の配当金は6500円。そのため、約35万株を保有する東京電力が受け取る配当金の総額が計算できます。
この場合、利益から生じる配当金は収益として計上します(税金は考慮外とします)。
預金 2,324(23億2400万)/受取配当金(収益)2,324(23億2400万)
実際には、東京電力は資産整理を進めており、KDDI株も将来的には売却される可能性があります。例えば、2011年7月29日終値(57万2000円)で全て売却した場合、売却額の総額は@572000×357541(株)=2045億1300万円。売却によって確定した損などは、費用や収益として認識します。
洗替法を採用した場合、会計システム上のKDDI株の価額は2215億4500万円であり、仕訳は以下のようになります。
預金 204,513(2045億1300万)/投資有価証券 221,545(2215億4500万)
有価証券売却損(費用) 17,032(170億3200万)
切放法を採用した場合、会計システム上のKDDI株の価額は1841億3300万円で、仕訳は以下のようになります。
預金 204,513(2045億1300万)/投資有価証券 184,133(1841億3300万)
有価証券売却益(収益) 20,380(203億8000万)
公債(国債と地方債)や社債などの債券のことを「公社債」と呼びます。国債、地方債、政府保証債、住宅債券、社債などの種類があります。東京電力の地方債を例に見ていきましょう。
(a)取得時の処理
取得時の処理は、株式と同じです。
投資有価証券 7/ 預金 7
(b)時価が変動した場合の処理
時価が把握できれば、公社債でも株式と同じように、含み損益の処理を行います。有価証券の利息は、収益として認識します(税金は考慮外とします)。
預金 ×× /有価証券利息(収益) ××
次回は「有価証券の分類、およびそれぞれの会計処理」を説明します。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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