意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
11月には簿記試験が実施されますね(2012年の試験日は11月18日)。皆さんの中にも、今回もしくは近いうちの受験を考えている人がいると思います。私もエンジニア時代に簿記試験を受験しました。
そこで今回は、簿記試験の勉強法について、自身の体験を交えてお話ししたいと思います。
簿記3級では、商業簿記の範囲から問題が出されます。
3級合格のために一番重要なことは
「仕訳の構造」と「決算書へのつながり」を、体に染み込ませること
です。具体的な仕訳と決算書作成の方法は、第22回「会計界の洗練されたプログラミング言語――複式簿記」で解説しているので、そちらをご参照ください。
仕訳は簿記の世界の基本的なルールであり、3級から2級、1級と級が上がっても、そのルールが変わることはありません。
ルールを体得するには、自分で何度も仕訳を書いてみるのが一番早いです。問題を見て、その取引がどのような仕訳になるかを答えるのです。そして、それぞれの勘定科目が増えるのか減るのかを考えます。
ところで、「ルールを知る」というのはとても退屈な行為ですね。私は趣味で囲碁をやるのですが、友人から「囲碁を始めようとしたけれど、ルールがよく分からずにやめてしまった」という話をよく聞きます。そんなとき「ルールを知ると面白いのになぁ」と思うものです。皆さんも自分の趣味について、そんな経験をされたことはないでしょうか。
簿記は趣味とは違いますが、ルールを理解すると、多少は面白いと思える部分が出てきます。
私は3級のハードルが、このルール理解にあると思っています。もともとエンジニアは「知る」ことを楽しめる人が多いように思います。誰もが最初に苦しむところだと考えて、取り組んでみてください。
次に簿記2級についてです。2級では商業簿記だけでなく、工業簿記の範囲からも出題されます。商業簿記についても、かなり複雑な問題が出ます。こちらについてはさらに踏み込んで、試験対策をお話ししようと思います。
2級は、第1問〜第5問の5分野で出題されます。
第1問では、仕訳を答える問題が5題出されます。他の問題に比べてそれほど時間はかからないのですが、特別な取引について広い範囲から出題されるため、実は完答が難しいと思います。いくつかの論点は過去に繰り返し出題されているため、過去問をこなすのがいいでしょう。
次に第2問と第3問ですが、どちらも与えられた情報を仕訳にして、残高試算表や決算書を作成する問題です。
この2問は時間がかかるものの、高得点を取りやすい問題だと思います。ポイントは間違えにくい下書きの作り方にあります。実際に私も過去問を解いてみました。その際の下書きをサンプルとして挙げておきます。
試験会場では、A4サイズの計算用紙1枚が配布されます。これを縦に4つ折りします。
縦4列を2つずつの組にして、右側に仕訳を、左側に金額を算定するための計算過程を書きます。よく使う勘定科目は、自分なりの略号を作って置き換えます。例えば、「Cは現金預金を示し、UKは売掛金を示す」というようにです。数字の末尾000は「―」で端折ります。
すべての取引について、仕訳を切ったら集計していきます。集計の際、使った仕訳には下線を引きます。そうすることによって、最後に漏れがないかを確かめることができます。
最後に第4問、第5問ですが工業簿記であり、これまでの商業簿記とは違った趣向で出題されます。これについては勘定連絡の仕組みを理解するのが大切です。本連載でも以下で解説しているので、読んでみてください。
ちなみに工業簿記では割り算をすることが多いのですが、私が記憶している限りでは、簿記2級試験で数字が割り切れなかった問題はありません。それをヒントにするとよいでしょう。電卓で割り算をしたとき、小数点以下に数字が並ぶようだったら、どこかが間違っていると思ってやり直した方がよいと思います。
今回は簿記試験について見てきました。この記事を執筆している喫茶店でも、簿記試験の勉強をしている人を見掛けます。記事を読んでいる皆さんの試験の合格をお祈りしております。それではまた。
お茶会計、書籍化!
ITエンジニアのための会計知識41のきほん
吉田延史(仰星監査法人/公認会計士) 著
インプレスジャパン
2012/02/17
ISBN-10: 4844331485
ISBN-13: 978-4844331483
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吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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