意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
今回は、Facebook上で募集した「簿記/会計 素朴な疑問」についてお答えしたいと思います。
さっそく見ていきましょう。
Q1.
経理の人は、全員簿記を理解しているんですか?
A1.
公認会計士になってから、実に大小さまざまな会社におじゃましてきました。そこでは、経理の実務を行っている人は全員簿記を理解していました。
「簿記を理解している」とは、「会社で発生する取引などをどのように帳簿に記録し、確認するかかが分かっている」ということです。これは、簿記3級の「帳簿組織」という内容に当たります。
一方、簿記試験の範囲であっても、自社の業務に関係しない項目があります。
例えば、「手形の割引」という内容は簿記3級の範囲です。ですが売上金の回収が現金のみの会社では、受取手形を使用することはなく、手形の割引について知っている必要はありません。
こういった個別の項目で、自社の業務に関係ないものについては、経理の人も知らない場合があります。
Q2.
経理の人は、1日いくつくらい仕訳を行っているのですか?
A2.
会計システムへのデータの挿入は、すべて仕訳を通じて行われます(第22回「会計界の洗練されたプログラミング言語――複式簿記」参照)。
皆さんが受験する簿記試験では、おおむね20ほどの仕訳を行うと思います。では、経理の人が実際に使う会計システムには、1日にどれだけの件数のデータが入るのでしょうか。
企業が利用しているシステム間のインターフェイスや、企業規模によって大きく異なってきますが、本当にざっくりといってしまうと、年商5億円くらいの会社で1カ月に1000件は超えます。1カ月の営業日が20日とすると、少なくとも1日50件はデータ登録があることになるでしょう。
Q3.
簿記試験には出るけど、ITエンジニアの実務であまり見ないものはありますか?
A3.
簿記3級の試験範囲でいうと、分記法や売買目的有価証券の時価評価は、そもそも一般企業では見かけません。
ITエンジニアの実務に関連する部分=システム化する部分ということになると、何度も何度も発生する取引に関するものでしょうから、これに当てはまらない借入金や資本金、配当といった項目は、ITエンジニアの実務とは関わりが少ないといえるでしょう。
Q4.
簿記試験には出ないけど、ITエンジニアの実務で重要な論点はありますか?
A4.
どういったシステムを担当するかによって変わってきます。以下、主なものを見ていきましょう。
消費税の仕組みと実地棚卸が重要です。それぞれ、第13回「自分が払った消費税、どうやって納められているの?」、第58回「残ったレッドブルはいくら? 『商品の繰越処理』基礎」で解説しています。
給与計算も重要ですが、そこから天引きされる社会保険料、所得税などの仕組みも重要です。
第23回「知っておいて損はない! 給与明細の見方」、第66回「社会保険料は、なぜこの額が天引きされるのか」、第81回「『そういえばもらったかな?』源泉徴収票を見てみる」を確認しましょう。
基本的には簿記試験の内容を理解すれば十分でしょう。
Q5.
実務で、間違えて仕訳を登録してしまうことはあるのでしょうか?
A5.
もちろんあります。間違えてしまった場合は単純に削除するのではなく、反対仕訳で修正するのが一般的です。
例:1億円の借入を、間違えて10億円で登録してしまった場合
【間違い仕訳】
預金 10億円/借入金 10億円
【修正のための反対仕訳】
借入金 10億円/預金 10億円
(間違いの仕訳の借方と貸方を反対にすることで、間違い仕訳を相殺する)
【正しい仕訳を再登録】
預金 1億円/借入金 1億円
Q6.
消費税の金額は、明細単位で端数処理した場合と合計で端数処理した場合で結果が異なります。どちらを利用するのがいいのでしょうか?
A6.
売上の集計などで除外する消費税額は、実は納付する消費税の計算には関係していないため、どちらを利用してもかまいません。ただし、合計で端数処理しても、請求は当然各社ごとに行います。なので請求書発行の際には、それぞれの消費税額を算出する必要があります。
Q7.
債権管理システムで、回収期限から長期間経過したものは、実際にはどのように回収作業が行われているんでしょう?
A7.
債権は期日通りに回収されないことも当然あります。その場合は、まず回収されない理由を調査します。得意先からのクレームが原因である場合は、その懸案事項を解決する必要があります。こちらに落ち度がないのに、支払いが滞っている場合には、得意先に支払期限が過ぎている旨の連絡を入れます。それでも払ってくれない場合には、訴訟などの法的措置をとることもあります。
いかがでしたでしょうか。経理について具体的なイメージを持ち、お仕事に生かしていただければ幸いです。それではまた。
「簿記/会計 素朴な疑問」とその回答、いかがでしたか?
記事をお読みになり、「ここがもっと知りたい」「これはどうなの?」という疑問がありましたら、ぜひ追加をお願いいたします。今後の記事作成に活用させていただきます。
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吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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