意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
わが国における原価計算は、従来、財務諸表を作成するに当たって真実の原価を正確に算定表示するとともに、価格計算に対して資料を提供することを主たる任務として成立し、発展してきた(昭和37年に企業会計審議会により設定された原価計算基準より抜粋)。
第43回「勘定科目はサーフィンに似ている? 原価計算入門」に引き続き、「原価計算の仕組み」について解説します。今回は、業態別の「原価計算方法」について解説します。
原価計算の方法は、
に大別できます。両者の違いはどこにあるのでしょうか。
以前の「原価計算」入門編で、原価計算は「材料の入手から製品の完成(売上原価)までに発生したコストの勘定科目がどんどん移動(サーフィン)していくプロセスだ」と説明しました。企業によって、このサーフィンのさせ方は千差万別といっていいでしょう。
一例として、まずはいわゆるSI企業について見てみます。
SI企業では、製品を生産するに当たっての決まった製造ラインがなく、プロジェクトごとに仕様を設計して開発していきます。そして、掛かったコストをプロジェクトごとに集計します。
SI企業では、日報入力や採算管理などのシステムがあり、社員はそれらのシステムを用いて「どのプロジェクトにどれだけの時間をかけたか」を定期的に報告しているかと思います。
経理部門は、入力に基づいて各プロジェクトの労務費を集計します。労務費以外のコストも同様に、プロジェクトごとに集計します。集計された製品コストは、売り上げに応じて売上原価(費用)に移動させます。
このように、プロジェクトごとに集計していく方法を「個別原価計算」と呼びます。個別原価計算は、SI企業にお勤めの方にとってはイメージしやすいのではないでしょうか。
次に、「総合原価計算」の例を見てみましょう。入門編で取り上げたお菓子メーカーが良い例です。
お菓子メーカーの場合、製品の生産に決まった生産ラインがあり、大量に製造して販売するビジネス形態を取っています。この場合、個別原価計算は採用できません。製造したポテトチップス1万個の1つひとつにかかった時間や材料費を集計するのは現実的ではありません。製品ごとにコストを集計することは不可能です。
原価を計算するときは、ポテトチップス全体でどれだけのコストが掛かったかを考え、割り算をすることになります。例えば、1年間でポテトチップスを1万個作って、9000個販売したとします。期末に1000個在庫が残っていれば、集計された原価のうち1万分の1000が、期末在庫(資産)となります。この方法を取る場合、製造担当者は「どの種類の製品製造にどれだけの時間をかけたか」を報告することになります。
製品種類ごとにコストを集計して割り算する方法を、「総合原価計算」と呼びます。
製品1つひとつではなく、同じ種類の製品全体のコストを集計し、案分計算を行うことによって製品1つ当たりの原価を算定する方法
最後に、業種別によく採用される計算方法を示しておきます。企業によっては、同じ業種に属していても異なる原価計算方法を用いる場合があるため、あくまでも目安と考えてください。
総じて、
となる傾向にあります。
●個別原価計算をよく用いる業界
●総合原価計算をよく用いる業界
上の解説では、数えられる製品を前提として記載しましたが、数えられない製品もあります。例えば、原油の精製を考えてみましょう。原油は、○個という形で数えることはできません。そのため、容積を示す単位を用いて、総合原価計算の方法によって計算します。ほかにも、長さや面積で計算する場合もあります。
業態別の原価計算を見てきました。原価計算の方法は有価証券報告書などに記載されているので、興味のある会社については「EDINET」(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)を見てみてもよいですね。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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