意外と知らない? 「退職金」の種類と計算方法お茶でも飲みながら会計入門(30)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

» 2010年04月08日 00時00分 公開
[吉田延史日本公認会計士協会準会員]

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:退職金の仕組みはどうなっているのか?

 「1月19日の日航破綻(はたん)から2カ月半。日航機が世界の空を変わらず飛び続ける中、2700人の特別早期退職募集は3月から始まった。35歳以上の対象社員は上司に呼び出され、退職金の支給額が示される。「いま辞めれば年金のカットも小さく、秋以降に辞めるより受取額は1000万円以上多くなります」と、再就職をあっせんする人材会社のパンフレットが手渡される」(毎日新聞 2010年4月4日 東京朝刊より抜粋)。

 退職後の生活のため、企業は従業員に「退職金」を支給します。しかし、日常的に意識するものではないため、自分にどれくらいの退職金が支給されるのか、把握していない方が多いのではないでしょうか。退職金の支給については、法律における詳細な取り決めがないため、一律な仕組みがありません。

 今回は、一般的な退職金規定を取り上げ、それぞれの場合どのように退職金が支給されるかを解説します。

【1】 退職金規定の例その1

 さっそく、サンプルを見てみましょう。以下の記載は、典型的な例の1つです。少々分かりづらいかもしれませんが、がんばって読んでみてください。

 支給する退職金は、退職時における基本給の月額に、それとは別に定める支給係数表で該当する支給率を乗じて算出した金額とする。なお自己都合による退職の場合は、80%を乗じた金額とする。

 (中略)

 退職金は、退職の日から原則として○日以内に全額を支給する。

 <支給係数表の抜粋>

 5年……3.0

 30年……27.5


 この制度では、退職金は退職時に一括で支給されます。

 例えば「勤続5年、基本給20万円」の人が自己都合で退職した場合には、退職金は20万円×3.0×80%=48万円となります。「30年勤務、基本給50万円」で定年退職した場合には、50万円×27.5=1375万円となります。

【2】退職金規定の例その2

 別のサンプルを見てみましょう。

 退職金の支給は退職年金によるものとする。 年金の支給は年4回(1月、4月、7月、10月)、給付期間は退職後20年間とし、支給額は以下のとおり(一部抜粋)とする。

 5年……なし

 30年……15万円


 上記の場合は、5年勤務では退職年金が受け取れません。 しかし、30年勤務すると退職後は20年間、3カ月ごとに15万円ずつ受け取ることができます。

【3】退職金規定の例その3

 最後は、普及が進んでいる「確定拠出年金」について記載します。以下は代表的なサンプルです。

  会社は各社員について○○資産管理機関に、毎月○円を事業主掛金として拠出する。

 退職手当は、老齢給付金として○○資産管理期間より年金給付する。


 確定拠出年金制度の場合、個人は一定額を毎月の掛金として拠出し、その資金を運用して老後に支給を受けます。そのため、拠出額が同じであっても、資産運用のやり方によって最終的な給付金額は変わります。確定拠出年金制度は新聞などでもたびたび取り上げられているため、知っておいて損はないでしょう。

【キーワード】 確定拠出年金

 各自が現役時代に拠出額を納め、それを自己の責任で運用し、老後に給付を受ける制度。従前は、老後の給付を一定額とする確定給付年金が一般的だった。しかし、企業にとって毎月の掛金拠出で退職金支払を完結できるメリットがあることから、近年は確定拠出年金制度の普及が進んでいる。


 退職金制度は千差万別で、上記の説明では到底すべてを網羅できません。ほかにも、ポイント制度を採用する企業、給与に含めて支給する企業もあります。ITエンジニアだったころのわたしは「退職金」をあまり意識していませんでしたが、これを機に自社の退職金規定を見直してみてはいかがでしょうか。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi


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