意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
日本語ワードプロセッサー「一太郎」を主力商品に持つジャスダック上場のソフト開発大手「ジャストシステム」(徳島市)株を巡るインサイダー取引疑惑で、東京地検特捜部は24日、未公表の同社の第三者割当増資情報を基に株取引したとして、東京都内のコンサルタント会社社長、A容疑者を金融商品取引法違反(インサイダー取引)容疑で逮捕した。(2011年6月24日 日本経済新聞 電子版より抜粋)
インサイダー取引とは、内部者(および内部者から情報提供を受けた人)が、未公表の重要事実を知りながら行う株式などの売買を指します。インサイダー取引は、法律により禁止されています。
インサイダー取引のどこの問題があるのでしょうか? これは、過去の株価の推移を投資家の目線で見ることによって分かります。ジャストシステムの株式売買を例に取りつつ、インサイダー取引について説明します。
ジャストシステムは、2009年4月3日にキーエンスと資本・業務提携すると発表しました(PDF資料)。開示情報によると、「2006年3月期より3期連続して営業損失を計上し、2007年3月期からは2期続けて27億円の営業キャッシュフローのマイナスを計上したことから2008年3月期末において、それまでの事業拡張を維持するだけの資金残高の十分な確保が困難になった」とあります。キーエンスとの資本・業務提携により、ジャストシステムの財務基盤は強化され、業績回復が期待されることとなりました。その結果、株価は急上昇しました。
さて、株価が上がることが確実な銘柄が分かっていれば、事前に株を取得することによって着実にもうけることができます。
しかし、これら内部事情に精通している人が転売利益を得てしまうと、他の投資家にとって不公平です。不公平がまかり通ってしまえば、証券市場で株式投資を行う人が減り、結果として企業は資金調達がスムーズに行えなくなってしまいます。
投資者の投資判断に著しい影響を与えると想定される、会社の運営、業務または財産に関する情報を「重要事実」と呼びます。重要事実は、「決定事実」「発生事実」「決算情報」「その他」と分類できます。
これらの事実を知った会社関係者が、公表前に株式などの売買を行った場合、インサイダー取引となります。ちなみに、株式などの売買によって得をしたかどうかは関係ありません。インサイダー取引によって損をしたのに摘発された事例もあります。公表後であれば、株式などの売買を行っても、インサイダー取引とはなりません。
内部者(およぼ内部者から情報提供を受けた人)が未公表の重要事実を知って行う株式などの売買のこと。
上場企業の中には、決算日の前後における株式の取引を全社員に禁止しているところもあります。インサイダー取引といえば、村上ファンドの村上世彰氏の「聞いちゃった」発言も記憶に残るところですが、インサイダー取引は売買の事実によって判定されてしまうため、重要な未公表情報を知って取引するのは損得に関わらず、いけませんね。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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