意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
今回は、支払いの際に使用する小切手と手形を取り上げます。
皆さんには、高額の支払いを現金で行って、緊張した経験はあるでしょうか。私は大学時代、グループ全員の旅行代金30万円を支払った時のことを覚えています。いつもより周りが気になり、お金の入った封筒がちゃんとあるかどうかがすごく気になったのを思い出します。
企業においては、もっと高額の支払いが起こり得ます。新しく機械を購入したり、不動産を取得したりなどです。小売店の仕入れでも、数が多くなると、億単位の支払いが発生することが間々あります。
億単位の支払いでは、紙幣を持っていって渡すようなことはまずありません。マンガに出てくるようなジュラルミンケースは、持っているだけでとても目立ちますし、危険です。
そこでどうするかというと、銀行振り込みを利用する方法があります。皆さんも利用したことがあると思います。銀行振り込みは暗証番号が設定されているため、盗難に遭うリスクは現金で支払う場合に比べて軽減されます。
他に考えられるのが、小切手を利用する方法です。ネットバンキングが登場したため、昔に比べると利用頻度は少なくなっているかもしれませんが、それでもまだ見かけるものです。下は小切手のイラストです。
小切手を使用するためには、銀行で当座預金口座を開設する必要があります。当座預金は、利息の付かない決済専用の口座の名称です。
小切手には、誰が発行したもので、いくら払うのかが記載されています。受け取った人が小切手を銀行に持っていくと、銀行がすぐにお金を支払ってくれます。銀行は支払った分、発行した人の口座残高を減少させます。
そのため小切手を持っていることは、書いてある金額のお金を持っているのと同じ意味があります。受け取った場合、および支払った場合の仕訳は以下のとおりです。
<売上時にその代金として小切手を受け取った場合>
現金 100円/売上 100円
<仕入時にその代金として小切手を支払った場合>
仕入 100円/当座預金 100円
小切手で支払いをするには、その時点で支払金額以上の口座残高がないといけません。残高がなかったり、支払いを先延ばししたかったりする場合に用いられるのが手形です。下は手形のイラストです。
このイラストの手形では、3カ月後に100円支払うことを約束しています。もちろん、手形を発行せずに口頭で「3カ月後に100円支払う」と約束することもできます。しかし手形には法的な拘束力があり、支払いが滞ると銀行で取引できなくなるため、口約束よりも支払いの確実性が見込めます。これが手形が利用される理由です。
手形は期日までは現金化ができないため、受取手形や支払手形勘定を用いて仕訳します。具体的には以下のとおりです。
<売上時にその代金として手形を受け取った場合>
受取手形 100円/売上 100円
<その後期日が到来し、資金化された場合>
当座預金 100円/受取手形 100円
<仕入時にその代金として手形を支払った場合>
仕入 100円/支払手形 100円
<その後期日が到来し、決済された場合>
支払手形 100円/預金 100円
手形は期日前には資金にできないと書きましたが、割引という方法を用いることで、額面よりも少ない額ですが期日前にお金を受け取ることができます。
割引とは、銀行に手形を売却することです。例えば100円の受取手形を、早く現金化するために98円で売却するなどです。この場合、差し引かれた2円は手形売却損という科目を用いて営業外費用とします。具体的には以下のとおりです。
<100円の受取手形を98円で銀行に割引依頼した場合>
現金 98円/受取手形 100円
手形売却損 2円
また、他の債務支払に受取手形を利用することもできます。例えば、仕入代金を支払うため、手元にある受取手形を仕入先に譲渡することができます。
手形の裏面に「自分の代わりにこの人に代金を支払ってね」という内容を記載します。このことを裏書と呼び、裏書きをした手形を譲渡することを裏書譲渡と呼びます。仕訳は以下のとおりです。
<仕入時、代金支払いのために100円の受取手形を裏書譲渡した場合>
仕入 100円/受取手形 100円
今回は手形と小切手について見てきました。最後に、確認クイズです。
【質問】
売上代金の受領において、手形100万円の受取と小切手100万円の受取が選択できる場合、企業はどちらを選択するでしょうか。
答えは次回で紹介します。それではまた。
「簿記試験には出ないけど、ITエンジニアの実務で重要な論点は?」「消費税の端数処理方法は?」など、これが聞きたい! という疑問をお寄せください。
いただいた疑問をピックアップし、本連載で解説する予定です。追加をお待ちしています!
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吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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