意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
簿記解説シリーズ、今回は簿記2級で扱う「本支店会計」を取り上げます。
これまで解説してきたものは、すべて本社での経理処理を前提としたものです。ネットワークの世界に例えるならば、LAN構築のような世界のお話だったのです。
今回の本支店会計は、2カ所以上の事業場がある場合を考えます。さながらWAN構築のようなもので、本社と支店でのやりとりについて考慮する必要がある分、複雑になります。
りんご農家のAさんは、妻と息子と3人暮らしです。春、息子が東京の大学に合格して1人暮らしを始めることになりました。息子は学生のため、仕送りが必要になります。これまでに比べて、生活が苦しくなるだろうと、Aさんは1カ月の損益を計算することにしました(農家の実際の損益とは大きくずれていますが、あくまで例なのでご了承ください)。
親側
子側
これらから、一家の損益を導くと以下のようになります。
売上
費用
一家の損益には、「仕送り支出 10万円」と「仕送り収入 10万円」が載っておらず、お互いに相殺しているのがお分かりでしょうか。
親の仕送り支出と息子の仕送り収入は、Aさん一家の中でのお金の移動なので(外とやりとりしてお金が移動したわけではない)、一家の損益には反映されません。このような、「内部での取引についての相殺」が本支店会計のポイントです。
引き続き、Aさん一家に登場してもらいます。息子は、遊ぶための余剰資金が足りないため、親に頼み込んでりんごを送ってもらい、売った分の利益を遊びのための資金にすることにしました。
ただし、息子といえどりんごはりんご、きちんと定価で買ってもらいます。息子は1箱5000円で10箱買い、6000円で売ります。りんごはとてもおいしかったので、簡単に10箱を売りさばけました。
その結果、親子別々の損益詳細は以下のようになります。
親側
子側
子側に、1万円の余剰金ができました。この場合、一家の損益は【1】より複雑になります。
売上
費用
「息子への売上 5万円」と「農業原価(親から仕入) 5万円」は、仕送りと同様、内部取引のため相殺します。
プラス、息子が頑張って親の定価以上の金額で外部に売って得た利益(1万円)が、一家の利益にも反映されます。
次に、息子が親から仕入れたりんごがまったく売れなかった場合、どうなるか考えます。
親側
子側
この場合、一家の損益は以下の通りになります。
売上
費用
親から仕入れたりんごは、在庫として残ってしまいました。親子の間で商品を移動させる際に親が得た利益を「内部利益」と呼びます。
内部で利益が出ているように見えても、一家全体で見るとりんごは売れませんでした。そのため、息子への売上から発生した親側の利益は内部利益となり、相殺すべき対象となります。
子に販売したりんごは10箱なので、消去すべき利益は(売上5000円−原価1000円)×10箱=4万円となります。
内部利益を消去した結果、利益は親子合計よりも4万円少なくなりました。ちなみに【2】で見たとおり、内部で売買した商品であっても、外部に販売されれば、内部利益として扱われません(親が子に販売する際に付加した利益も外部販売による利益となるため)。
この内部利益が本支店会計を攻略するポイントとなりますので、再度キーワードで振り返っておきます。
本支店間で、商品移動させる時に付加した利益のうち、期末に在庫として残ってしまったもの。合算損益計算書上は消去する必要がある。
本支店会計について見てきました。仕訳については記載していませんが、まず上記の考え方を押さえましょう。また、仕訳を見るときには、本店側・支店側どちらの仕訳なのかに注意しながら見るとよいでしょう。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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