意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
「経理部は、決算の前後は非常に忙しい」――よく言われる言葉です。私自身、前職ではそばで見ていて漠然と「忙しそうだな」と思っていました。「忙しそう」とはいっても、実際に経理部はどんな作業をどんなスケジュールで行っているのでしょうか? 今回は、「決算業務」の実態をのぞいてみましょう。
決算作業は、上場企業と非上場企業で大きく異なるのをご存じでしょうか? まずは、非上場企業について見ていきましょう。
(a)残高の確定
最初の作業は、残高の確定です。自分がどれだけの資産・負債を持っているかを1年に1回、年末に算出する自分をイメージすると、分かりやすいでしょう。
例えば、上記のようなものがありますね。
残高の確定作業では、決算日時点でそれぞれの残高がいくらかを決定します。現金では、金庫にある現金を数えて、それが会計システムにおける現金の残高と一致していることを確認します。
車などの固定資産では、取得・売却などによる増減を反映させて、減価償却費を計算し、残高を確定させます。
クレジットカードでの支払いといった未払い債務については、請求書などを各部署から集めて、支払義務のある債務を確定します。資産・負債のすべてについて、上記のような確定作業を行います。
同時に、「科目明細」と呼ばれる科目ごとの詳細も作成します。現金については支店別、固定資産については種類別、未払金については支払先別などで分類して作成します。
同様に、売り上げや売上原価などの「損益項目」も残高を確定させます。経理チームではすべての項目について、作業を分担して確定させます。
(b)税金計算
次の作業は税金計算です。決算とともに申告すべき税目のうち、主なものは法人税、住民税、事業税、消費税です。これらは、決算日から2〜3カ月以内に申告書を提出し、税金を納付しなければなりません。
税金計算は、専門性が高いため税理士などの専門家に業務を依頼する場合が多いです。申告書を作成した結果、納付すべき法人税額は、未払法人税という負債になります。つまり、これ以外の残高をすべて確定させてから税金計算を行い、最後に未払法人税の残高の確定作業に入ります。
(c)決算書の作成
次の作業は決算書の作成です。確定した残高を組み合わせて貸借対照表・損益計算書を作成します。
例えば、現金と預金は合算して、「現金および預金」などとして貸借対照表の「流動資産」に表示します。決算書は、貸借対照表などの他にも追加で記載する事項(注記事項と呼びます)があります。一例を挙げると、決算日後に発生した重要事項(後発事象)や会計基準の変更に伴い経理方法を変更した場合などに、注記が必要となります。
出来上がった決算書は、取締役会・監査役・会計監査人などのチェックを受けて、株主総会に提出します。株主総会は決算日から3カ月以内に開催されるため、ここまでの作業を決算日から3カ月以内に行います。特に会計監査人がいる会社においては、監査が少なくとも2週間ほど入りますから、3月決算を前提とすると、5月中旬には経理チームとしての作業を終えておく必要があります。
上場企業の場合は、さらにスケジュールがタイトです。上場企業は、決算短信というものを作成しなければなりません。決算短信とは、各証券取引所が上場企業に作成を求めている速報資料であり、決算日から45日(およそ1カ月半)での開示を求めています。
この決算短信は、速報資料とはいえ、先ほど述べた貸借対照表・損益計算書・注記事項をはじめとして、重要なものはほぼすべて掲載されます。決算短信のもう1つの特徴は、速報性を重視することから、公認会計士による監査が義務づけられていない点です。ただし、その後で開示する有価証券報告書には監査が義務づけられており、決算短信と有価証券報告書が整合しないと問題が生じますから、多くの企業は決算短信を開示する時点で、重要事項については監査を受けて、問題がないことを確認しています。
証券取引所が、上場企業に作成を求める速報資料のこと。貸借対照表・損益計算書・注記事項をはじめとして、重要なものはほぼすべて掲載。決算日から45日以内の開示が求められる。監査は義務づけられていない。
さらに、非上場企業との大きな違いとして、連結決算が求められている点があります。連結作業も通常は1週間ほどかかるため、3月決算の上場企業の傘下にある各社は4月中旬くらいには、経理チームの作業を完了させなければなりません。これは、相当にタイトなスケジュールです。
この決算短信の開示が、上場企業の経理チームの決算作業の大きな山場といえるでしょう。この後も、株主総会用の決算書の作成や、有価証券報告書の作成、税務申告など、重要なイベントは目白押しですが、決算短信の作成は時間の余裕が最も少ない業務であるといえます。上場企業の場合のスケジュールも以下に示しておきます。
もう1つ注目すべき点は、“経理チームが決算業務だけを行っているわけではない”点です。決算作業の最中にも、翌期の経理業務(3月決算の企業なら、4月に発生した取引の記帳や支払いなど)もあります。
3月決算の企業にお勤めの方は、請求書や売上票の提出について、提出期限が回ってくるころかと思います。忙しい時期でしょうが、できる限り、経理チームにも協力できるといいですね。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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