意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
まずは前回の答え合わせからいきましょう。
売上代金の受領において、手形100万円の受取と小切手100万円の受取が選択できる場合、企業はどちらを選択するでしょうか。
手形は、将来の支払いを約束するものでした。一方、小切手は銀行に持ち込めばすぐに資金化ができるものでした。どちらか選択できるのであれば、小切手で受け取った方が、手元にお金が来るため有利です。
「手形でも最終的には入金されるんだろう」と思われるかもしれませんが、もしかしたら支払いの前に得意先が倒産してしまうかもしれません。そのため、早いうちに現金でもらうことが大切なのです。というわけで正解は小切手でした。
さて、今回は商品販売の仕訳の方法について解説します。コンビニのように商品を渡して現金を受け取るモデルで考えます。簿記3級の中でも基本となるところです。
商品の販売はこれまで取り上げていませんでしたが、前々回の「120万の車、3年乗って10万で売却。これって損? 得?」で紹介した固定資産の売却が参考になります。車を売却したときの仕訳を振り返ってみましょう。
現金 10万円/車 120万円
車売却損 20万円
車減価償却累計額 90万円
上記の仕訳の本質は、渡した資産を減少させて、もらったお金との差額を売却損か売却益として認識するものです。
同様に商品販売でも仕訳すると、以下のようになります。
例:100円で仕入れた傘を500円で販売した。
現金 500円/ 商品 100円
商品販売益 400円
上記の仕訳方法を分記法と呼びます。分記法はシンプルなのですが、実務ではほとんど使われることがありません。なぜなのでしょうか。
損益計算書においては、売上から売上原価を差し引いて売上総利益を算出します(第15回「損益計算書に登場する5つの利益」参照)。売上とは顧客からもらった対価総額であり、売上原価とは売上に対して直接掛かったコスト(今回の例では傘の仕入れ値)です。
分記法では、売上総利益の金額は分かるのですが、売上と売上原価の2つの勘定科目がなく、残高試算表(第22回「会計界の洗練されたプログラミング言語――複式簿記」参照)を見るだけではその金額を知ることができません。ここに、分記法の問題点があります。
そこで、受け取った現金はすべて売上として認識する方法を採用します。
例:傘を500円で販売した。
現金 500円/売上 500円
これを三分法(さんぶんぽう)と呼びます。この方法では売上と売上原価を分けて考えます。
売上原価の金額をどのように記録するかについて、次に見ていきましょう。
三分法により売上原価を計算する方法は、実は第58回「残ったレッドブルはいくら? 『商品の繰越処理』基礎」にて解説しています。
ポイントは、
売れた時に、売上原価について仕訳しない
ということです。年度の最初にあった数と、仕入れた数、そして、年度の最後にあった数を数えて、売上原価を導きます。
ここが分記法や固定資産の売却と異なる点です。
例:
(傘の仕入単価は常に100円とします)
最後に、三分法についてまとめておきます。
簿記における商品売買の記録方法の一つ。売上、仕入、繰越商品の3つの勘定科目を用いることから三分法と呼ばれている。この方法を採用すると、売上や売上原価について、残高試算表を見るだけで把握することができるため、ほとんどの会社で利用されている方法である。
なお、実務上は採用されることが少ないと書いた分記法ですが、簿記試験では時々登場しています。今回紹介したように、固定資産の売却と考え方が似ているため、対比して見てみるといいかもしれません。
もちろん三分法の方が出題頻度は高いですから、まずは三分法の記帳方法をマスターすることをお勧めします。それではまた。
「簿記試験には出ないけど、ITエンジニアの実務で重要な論点は?」「消費税の端数処理方法は?」など、これが聞きたい! という疑問をお寄せください。
いただいた疑問をピックアップし、本連載で解説する予定です。追加をお待ちしています!
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吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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