意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
「我が国の情報システム市場は、現在、主として『人月ベース』の価格表示を行っており、それに伴う価格の根拠がユーザ側の価格への不信感につながっていることは従来から多数指摘されているが、残念ながら、この課題は現在まで業界全体として抜本的に解決されるには至っていない」(経済産業省「情報システムのパフォーマンスベース契約に関する調査研究報告書」より抜粋)。
たいていのIT企業は上記のような問題点をはらみながらも、プロジェクトを売価・原価ともに「人月ベース」で管理し、採算性をチェックしていることと思います。そして、人月原価と自分の手取額には、少なくない開きがあるはずです。なぜ、両者に差が生じるのでしょうか。
以下は、架空の給与明細です。
給与明細の例支給項目 | ||||
基本給 |
住宅手当 |
通勤非課税 |
残業手当 |
|
240,000 |
20,000 |
12,000 |
23,200 |
|
残業時間 |
深夜残業 |
|
|
支給計 |
10時間 |
2時間 |
|
|
295,200 |
控除項目 |
||||
健康保険 |
厚生年金保険 |
雇用保険 |
源泉対象額 |
|
11,480 |
20,994 |
1,680 |
249,046 |
|
所得税 |
住民税 |
|
|
控除計 |
6,400 |
15,000 |
|
|
55,554 |
|
差引支給額 |
239,646 |
そして、以下が、人にかかるコストの一般的な名目です。
上に挙げた(架空の)給与明細の各項目とさまざまな人的コストの間には、どのような関係があるのでしょうか。「支給項目」については特に難しくないでしょう。「通勤非課税」は「交通費」に、それ以外の手当は「基準内給与」「基準外給与」に分類されます。
一方、控除項目はどうでしょうか。
企業が従業員に給与を支給する際に、控除する天引項目のこと。主に社会保険の個人負担額、所得税、住民税などがある。
上記より、例に挙げた給与明細の手取り額と会社の総負担額を計算してみましょう。
手取額……23万9646円
会社負担額……32万9354円
給与の支給額+社会保険料の会社負担額
=295,200+(11,480+20,994+1,680)
=329,354
手取りと会社負担額の差額は8万9708円(ほぼ4割増)となります。なお、賞与もほぼ同じ計算ですので、年額での手取額と会社負担額との差額もだいたい4割増しくらいとなります。手取額が上がれば、税率が上がるため、差額は大きくなります。
上記以外にも福利厚生費・退職給付費用が発生するので、本来の差額はもっと大きなものになります。人を雇うのにかかるコストがいかに大きいものか、ご理解いただけたのではないでしょうか。
会社によっては、標準工数単価と給与手取額にもっと大きな開きが出ていると思いますが、それは恐らく経費も含めて標準工数単価を算出していることによるものです。企業では人件費以外にも、間接部門のコストや、固定資産の減価償却費、借入利子などたくさんの経費が発生し、それらを吸収した上で利益が生じるかどうかを考えないといけません。
IT企業にお勤めの方の中は、標準工数単価と給与手取額の違いにびっくりした経験のある方も多いと思いますが、企業は手取額以外にもいろいろと負担していることを考えると妥当な算定なのかもしれませんね。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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