知っておいて損はない! 給与明細の見方お茶でも飲みながら会計入門(23)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

» 2009年11月12日 00時00分 公開
[吉田延史日本公認会計士協会準会員]

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:給与明細

 「我が国の情報システム市場は、現在、主として『人月ベース』の価格表示を行っており、それに伴う価格の根拠がユーザ側の価格への不信感につながっていることは従来から多数指摘されているが、残念ながら、この課題は現在まで業界全体として抜本的に解決されるには至っていない」(経済産業省「情報システムのパフォーマンスベース契約に関する調査研究報告書」より抜粋)。

 たいていのIT企業は上記のような問題点をはらみながらも、プロジェクトを売価・原価ともに「人月ベース」で管理し、採算性をチェックしていることと思います。そして、人月原価と自分の手取額には、少なくない開きがあるはずです。なぜ、両者に差が生じるのでしょうか。

【1】企業の視点から見た給与明細

 以下は、架空の給与明細です。

給与明細の例
支給項目

基本給

住宅手当

通勤非課税

残業手当

 

240,000

20,000

12,000

23,200

 

残業時間

深夜残業

 

 

支給計

10時間

2時間

 

 

295,200

控除項目

健康保険

厚生年金保険

雇用保険

源泉対象額

 

11,480

20,994

1,680

249,046

 

所得税

住民税

  

 

控除計

6,400

15,000

 

 

55,554

 

差引支給額

239,646


 そして、以下が、人にかかるコストの一般的な名目です。

  • 基準内給与……毎月固定的に発生する給与を指します。基本給や住宅手当などが該当します。
  • 基準外給与……月々で変動する給与を指します。残業手当、休日出勤手当などが該当します。
  • 法定福利費……法定されている社会保険料の会社負担分を指します。社会保険料とは、健康保険・厚生年金保険・雇用保険・介護保険・労災保険を指します。
  • 福利厚生費……福利厚生目的の費用を指します。社員食堂や社宅施設の維持費用などが該当します。
  • 交通費……社員の通勤代や出張費等が該当します。
  • 退職給付費用……退職時に発生する退職金のうち、当期に発生した費用を計上します。

 上に挙げた(架空の)給与明細の各項目とさまざまな人的コストの間には、どのような関係があるのでしょうか。「支給項目」については特に難しくないでしょう。「通勤非課税」は「交通費」に、それ以外の手当は「基準内給与」「基準外給与」に分類されます。

【2】控除項目は企業からみると……

 一方、控除項目はどうでしょうか。

  • 健康保険/厚生年金保険/雇用保険……それぞれの概要を説明すると、健康保険は医療費が3割負担で済むための制度、厚生年金保険は退職後65歳から年金を受け取ることができる制度、雇用保険は失業したときに給付を受けられる制度です。これらは、会社と労働者でだいたい半分ずつ負担することが法で定められています。総額で100の支払いが必要だとすると、労働者が50、会社が50負担します。給与明細に載っている控除は、個人が負担するべき金額ですが、ほぼ同額を会社が負担してくれていることになりますから、会社にはそれだけの法定福利費が発生します。
  • 所得税/住民税……これらは、個人の収入に対してかかる税金であり、会社が個人に代わって納付します(源泉徴収などと呼ばれます)。そのため、会社の負担する金額はありません。なお、所得税は見込計算により毎月納付しているため、給与所得を年末に再計算して、精算します(年末調整と呼ばれます)。

【キーワード】 控除項目

企業が従業員に給与を支給する際に、控除する天引項目のこと。主に社会保険の個人負担額、所得税、住民税などがある。


【3】実際に計算してみよう

 上記より、例に挙げた給与明細の手取り額と会社の総負担額を計算してみましょう。

手取額……23万9646円
会社負担額……32万9354円
給与の支給額+社会保険料の会社負担額
=295,200+(11,480+20,994+1,680)
=329,354

 手取りと会社負担額の差額は8万9708円(ほぼ4割増)となります。なお、賞与もほぼ同じ計算ですので、年額での手取額と会社負担額との差額もだいたい4割増しくらいとなります。手取額が上がれば、税率が上がるため、差額は大きくなります。

 上記以外にも福利厚生費・退職給付費用が発生するので、本来の差額はもっと大きなものになります。人を雇うのにかかるコストがいかに大きいものか、ご理解いただけたのではないでしょうか。

 会社によっては、標準工数単価と給与手取額にもっと大きな開きが出ていると思いますが、それは恐らく経費も含めて標準工数単価を算出していることによるものです。企業では人件費以外にも、間接部門のコストや、固定資産の減価償却費、借入利子などたくさんの経費が発生し、それらを吸収した上で利益が生じるかどうかを考えないといけません。

 IT企業にお勤めの方の中は、標準工数単価と給与手取額の違いにびっくりした経験のある方も多いと思いますが、企業は手取額以外にもいろいろと負担していることを考えると妥当な算定なのかもしれませんね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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