意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
今回は、趣向を変えて会計版三題噺をやってみます。三題噺とは、観客に出してもらった3つの題目を折り込んで、即興で演じる落語のことです。今回は幾つかの題を事前に出して、さいころを振って決めました。
では、会計版三題噺の始まり、始まりー。
会計士の仕事をしていると時折、支払いが滞っている債務を見掛けることがあります。経理に事情を聞くと「検収を上げたから債務計上したのに、向こうから請求書が届かないから、払ってないんですよ」と返ってくることがほとんどです。
おそらく売った側では、営業担当か作業担当が、もらった売上検収を社内のしかるべきルートに乗せずに、かばんや引き出しの中に入れっぱなしになっているものと思われます。これって実は、せっかくした仕事が無償奉仕に終わってしまっているのです。
いったいどういったことが起こっているのか、詳細に見ていきましょう。
まず、購入側の一般的な検収から支払いまでの業務フローを見ていきましょう。
あるシステムが完成して、担当者が検収書にサインをします。検収書は経理部に回されて、経理で債務を認識します。その後、請求書を受け取ってから、支払いが行われることとなります。つまり債務支払いシステムにおいては、請求書が来ないことには支払いは行われないのです。なお、請求書を入手せずに支払先に支払通知を発行するやり方もあり、そういった方法を採用している企業もあります。
他方、販売側では一般的に売上票などの名称の社内資料があり、それに必要事項を記入して検収書とともに上長に提出します。最終的には経理に回り、経理が売り上げを認識するとともに、請求書を発行します。つまり検収書を添付した売上票を起票しないことには、請求書は発行されないのです。経理の立場からすると、どの案件が完了したのかは、各担当に意思表示してもらわないと分からないため、当然であるともいえます。
前述のように、担当者が売上検収書を提出するのを失念している場合には、経理は請求書を発行できず、購入側には請求書がいつまでたっても届きません。結果として、仕事をした分の対価をもらえずに、無償奉仕になってしまうのです。
こういった失敗が起きないように、会社はいろいろな網をめぐらせています。例えば、受注報告に売上予定月を入力してもらって、予定月を越えても売上票が提出されていない案件について担当に理由を聞くなどです。めぐらせた網を抜けてしまったものが、購入先で「支払いが滞っている債務」として登場するのです。
支払いの原則は請求書ありきです。その点、給与は請求書のない支払いであり例外的です。皆さんも給与をもらうのに請求書を作成したことはないでしょう。支払いのために必要な申請(残業申請など)を行うことによって、計算は人事が行ってくれますね。
しかし、よくよく考えてみると【1】の売上検収の話とどこか似た部分があります。給与が振り込まれていなければ、誰でもすぐに気付くでしょうが、万一金額が間違っていても、気づかないのではないでしょうか。
本来、全ての取り引きはお金を受け取る人と、支払う人がそれぞれ正しいことを確かめるべきなのですが、給与は肝心な自分の収入のことなのに、自ら計算した金額ではなく、他人が計算した数値が用いられているのです。本来は支払い側任せではいけないのではないでしょうか。
ぜひ、ご自分の給与明細を手に取って、重要な部分について計算があっているかどうかを確かめてみてください。計算方法については、第23回も参考にしてください。
三題噺いかがだったでしょうか。それではまた。
お茶会計、書籍化!
吉田延史(仰星監査法人/公認会計士) 著
インプレスジャパン
2012/02/17
ISBN-10: 4844331485
ISBN-13: 978-4844331483
1575円(税込)
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吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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