意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
「金融庁は12月8日、公認会計士試験の見直しを検討する懇談会を12月10日から開くと発表した。公認会計士試験制度については、合格しても監査法人に就職できないなどの「就職難」が問題となっていた」。(@IT IFRSフォーラム「公認会計士試験制度が見直しへ、金融庁が懇談会」より引用)
公認会計士になるためには、国家試験である公認会計士試験に合格しなければなりません。合格率は高くないため、これまで就職に困ることは滅多にありませんでした。ところが上記の記事のように、近年、公認会計士は就職難に陥っています。どうしてそのような状況になっているのでしょうか。その理由は、外部環境の変化や、それに対応する公認会計士の業務内容に関係します。今回は公認会計士の業務について解説します。
会計士はもちろん会計の専門家ですから、会計の専門知識を生かした業務を行います。一例を挙げると、株価算定業務があります。上場している会社の株価には証券取引所の取引価格がありますが、上場していない会社は直近で売買を行っていない限り、取引価格がありません。上場していない会社を買収したり合併する際には、一株いくらになるのかを算定する業務が必要となります。財務諸表や同業他社の株価、事業計画の各種数値を基に算定を行います。
なお、会計士とは別の類似する資格として、税理士があります。税理士は企業の税務申告を代理で行ったり、税務署類の作成をしたりすることを業(なりわい)とします。公認会計士でも税理士として登録し、税務業務を行うことがあります。
以上のような業務を行う公認会計士はたくさんいますが、多くの公認会計士が従事している業務が別にあります。
公認会計士は、監査および会計の専門家です。そのため、監査の専門家として、会計監査の仕事に従事している公認会計士がたくさんいるのです。それでは、監査とはどういった業務であり、何のために行うのでしょうか。
例えば、あなたは自己資金で投資をはじめることにし、東証一部上場企業のうち、いずれかの株を取得することを検討するとしましょう。投資するなら、配当を受けられ、株価が上昇する良い銘柄を選びたいところですが、どうやったらそういう銘柄を見抜けるのでしょうか。
1つの答えとしては、過去の決算情報を参照することです。過去継続して利益が上がっている会社や、高額な配当を行ったことのある会社には実績があります。もちろん将来どうなるかは分かりませんが、少なくとも大きな判断材料とすることができそうです。投資に有用な指標として雑誌にも頻繁に登場するPERやROAなどもこの決算情報を基に計算されます。
この決算情報ですが、作成は上場企業の経理担当者が行います。決算情報は会社の通信簿であるため、社長としてはできるだけ良い情報を発表したいものです。それが度を超してしまうと、嘘(うそ)の売り上げの計上や利益の水増しが行われる恐れがあります(粉飾決算と呼びます)。そこで、企業外部の公認会計士が、決算情報の妥当性について、監査を行うのです。
すべての上場企業は、監査を受けることが義務付けられており、監査証明は公認会計士しか発行できないこととなっています。多くの公認会計士は上場企業に出向き、財務書類が正しい経理処理に基づいて作成されているかなどを入念にチェックします。
監査を行うためには、会計処理を知っていることが必要ですが、監査手法についても詳しくなければなりません。監査手法とは例えば、経営指標などを分析する手法や、決算情報の作成に当たってどういったリスクがあるかを分析する手法などのことです。
企業が作成した財務情報が正しい経理処理に基づいて作成されているかをチェックする業務。公認会計士の独占業務であり、公認会計士以外のものが会計監査により財務情報の適正性についての監査証明を発行することはできない。
次に就職難の理由について見てみましょう。つい2年ほど前の話ですが、金融庁はJ-SOX(内部統制監査制度)の導入により、これまで以上に監査に時間と人手がかかることを予見し、公認会計士を増加させる方針を打ち出しました。それに歩調を合わせ、ここ2年ほど公認会計士試験の合格者数はこれまでよりも増えました。ところがJ-SOX制度が導入されてみると、当初金融庁が想定したよりも時間と人手がかからず、監査業務を行う監査法人は、合格者全員を受け入れて業務を行うだけの仕事量を見い出だせませんでした。また、不況の影響で新規上場の会社も極端に減少し、倒産により既存の上場企業数も減少し、監査業務全体が縮小傾向にあります。その結果、今期は就職難の状況に陥ってしまったのです。
なお、米国でも日本の公認会計士に類似する資格(US-CPA)があります。US-CPAの資格者も米国で監査の仕事を行いますが、米国では、経営者サイドでCFO(最高財務責任者)の仕事を行う人たちが、日本に比べて多いようです。
わたしも監査法人に勤務し、監査業務を行っています。企業活動のほとんどは会計と結び付いていますから、監査業務を通じて、企業活動の核となる部分を見させていただける点に役得を感じます(もちろん守秘義務がありますので、ほかに漏らすことはできません)。もっとも、ITエンジニアも顧客の業務改善という至上命令から、企業活動の深い部分を見ることができる点では共通するかもしれませんね。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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