親会社と子会社の間で行う連結決算の流れを、リアルな家族間のお金のやりとりを例にとって分かりやすく解説しよう。
上場企業は決算情報の開示を義務付けられています。決算情報は、上場企業自身の情報の他、子会社などを含むグループ全体の決算情報(連結決算情報)も開示しなければなりません。連結決算とは、実際には、どのような作業が行われているのでしょうか。今回は連結決算の流れについて解説します。
上場企業は決算前に、連結の範囲を決定します。連結の範囲とすべき会社の代表例は子会社(株式を50%超保有するなどにより支配している会社)です。
ただし、一部重要性が乏しい子会社は、連結の範囲から除外できます。連結対象となった会社は、連結決算のために自社の決算情報を親会社に提出します。海外の会社も対象になります。米国の子会社でしたら、ドル建ての決算書を親会社に提出します。
受け取った決算書を全て合算して、その後必要な修正を行います。必要な修正はグループ会社間の取り引きをグループ全体では「無かったこととする」ために行われます。グループ会社間の取り引きが少なければ、修正は少なくて済みますが、たいていの場合、さまざまな取引が行われているため、多くの修正を行います。
分かりやすい例でもう一度見ていきましょう。
野原家の家族構成
「父」の3月の収入と支出
3月1日時点の現金預金合計:100万円
収入
給料:50万円
支出
息子に仕送り:−20万円
母に渡す生活費:−30万円
ゴルフなどの接待交際費:−10万円
3月31日時点の「父」の現金預金合計:90万円
父は母がどれだけ貯金しているかを知らないので、自分の手持ち資金が少ないことに老後の不安を感じました。そこで、家庭全体でどれだけの「資金」「収入」「支出」があるのかを調べることとしました。母と息子に3月の状況を聞くと以下の通りでした。
「母」の3月の収入と支出
3月1日時点の現金預金合計:900万円
収入
父から受け取る生活費:30万円
支出
生活費(家賃・食費など):−20万円
3月31日時点の現金預金合計:910万円
「息子(大学生)」の3月の収入と支出
3月1日時点の現金預金合計:20万円
収入
父からの仕送り:20万円
バイト収入:10万円
支出
生活費(家賃・食費など):−20万円
3月31日時点の現金預金合計:30万円
まずは、これを合算します。
「野原家の家族3人」合計の3月の収入と支出
3月1日時点の現金預金合計:1020万円
収入 110万円
支出 −100万円
3月31日時点の現金預金合計:1030万円
一家でたくさん収入があって、かなり浪費しているようですが、よく見ると家族間でのお金の受け渡しで収入と支出が膨らんで見えていることが分かります。これでは、一家の正確な収支状況が見えてきません。
そこで、「家庭内のやりとりを無かったこと」とします。具体的には「父が家族に渡している生活費や仕送りを無かったこと」とします。
まとめると、一家の収支表は以下の通りです。
「野原家の家族3人」合計の3月の収入と支出〜無かったことにしたバージョン
3月1日時点の現金預金合計:1020万円
収入 60万円
支出 −50万円
3月31日時点の現金預金合計:1030万円
四半期決算で連結決算情報の開示が必要なため、上場企業はこれに相当する作業を、3カ月ごとに行っています。上場企業の子会社は、3カ月ごとに親会社に決算情報を提出しています。
連結決算について見てきました。ちなみに前回例に挙げたソフトバンク社の連結子会社は、2013年3月の決算で150社もあります。これだけの会社から決算情報を3カ月ごとに集めるだけでも大変なのに、そこから全てのグループ会社間取引を修正するとなると、相当大変ですね。それではまた。
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吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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