馬券の例から考える、償却原価法の「金利の調整」お茶でも飲みながら会計入門(57)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

» 2011年09月25日 00時00分 公開
[吉田延史日本公認会計士協会準会員]

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:有価証券その2

 前回「東京電力が保有するKDDI株から、有価証券を学ぶ」に引き続き、有価証券を解説します。

 前回の内容は、簿記3級の知識がメインでした。今回は、簿記2級の範囲です。前回に比べて、かなり突っ込んだ内容が問われます。

【1】 企業が有価証券を保有する4つの目的

 簿記2級レベルでは「有価証券の保有目的」がメインです。

 個人の場合、株主優待や配当、売却益が欲しくて、有価証券を持つでしょう。しかし、企業の場合、個人とは保有目的がちょっと異なります。

 簿記上では、企業の保有目的を4つに分類し、目的ごとに会計処理を行います。

(1)売買目的

 一番シンプルな、売買によって利益獲得を目指す保有です。金融機関のディーラー部門が扱う株式などは、その代表例でしょう。とはいえ、製造業やIT企業の場合、「売買目的」で株式を保有することは基本的にありません。

(2)満期まで保有する目的(公社債のみ、株式はなし)

 公社債は、「5年後」など、いつになったら返済されるか(満期日)がはっきりと決まっています。取得以降に売買せず、満期まで保有し続ける意図がある場合が該当します。

(3)企業を支配する(あるいは企業に対して影響力を持つ)目的

 株式には、利益の配当を受ける権利の他に重要なものとして、「株主総会の議決権」があります。株主総会は会社の最高意志決定機関です。議決権のうち一定数を占めれば、会社の意志決定を支配したり、大きな影響を与えられます。

(4)上記以外の目的(その他の有価証券)

 上記以外でも、取引上の付き合いで株式を取得する場合があります。「メインバンクとの付き合いで銀行株を取得」「経営者同士のつながりで事業立ち上げを支援する形で株式を取得」といった場合が相当します。

 (3)「企業を支配する目的」(4)「上記以外の目的」については、簿記1級の範囲なので、本記事では、(1)「売買目的(2)「満期まで保有する目的」について解説します。

【2】 保有目的ごとに会計処理が変わる

 有価証券の含み損益に関する会計処理は、目的ごとに変わります。

(1)売買目的

 売買目的で保有している場合、含み損益は「決算時点における投資成果」を表しています。そのため、

  • 含み損=費用
  • 含み益=収益

として認識し、貸借対照表上は“時価”扱いで「資産」に登場します。

(2)満期まで保有する目的(公社債のみ)

 公社債を満期まで保有する場合、途中の含み損益がプラスだろうとマイナスだろうと、満期日にしっかり回収できていれば企業のもくろみは成功します。そのため、途中段階で、含み損益は認識しません。

 結果として、貸借対照表には“時価”ではなく、購入値段から「一定の調整」を加えた金額で登場します。

【3】 “一定の調整”を加える償却原価法

 具体的に、一定の調整とはどのようなものを指すのでしょうか。

 公社債は、返済される金額(額面金額)どおりで売買されるとは限りません。1万円の社債がそれより高額で売買されることもあれば、9900円で売買されることもあります。

 さて、額面1万円の社債を9900円で購入したとしましょう。このとき、100円少ない金額で購入できる理由は、「金利の調整」が考えられます。金利の調整について、競馬を例に見ていきましょう。

 単勝1番が1倍だとします。最終的に1万円回収したい場合、賭けるべき金額は、10000円(10000÷1)です。

 ここで、オッズが変動し、単勝1番が1.1倍になったとすると、賭けるべき金額は、9090円(10000÷1.1)に変化します。

 公社債の金利は、競馬でいうところのオッズに相当します。金利は、市場動向によってリアルタイムで変化します。本来は1倍(金利0%)だったものが、市場金利が変動した影響を受けて1.1倍(金利10%)になることがあります。

 公社債は、最終的に回収できる金額(額面金額と利息)が発行条件として固定されているため、1万円-9090円=910円の差額が発生します。

 金利の調整によって差額が発生する場合は会計上、時間の経過とともに9090円で買ったものが元の1万円になるよう、調整していきます。 この調整する方法を「償却原価法」と呼びます。

【償却原価法の例】

 1年後に満期となる1億円の社債を9900万円で購入

  • 購入時の資産価格……9900万円
  • 投資有価証券 9900万円/現金預金 9900万円
  • 半年後の資産価格……9950万円(9900万円+差額100万÷2)
  • 投資有価証券 50万円/有価証券利息 50万円
  • 1年後の資産価格……1億円(9900万円+差額100万円)
  • 投資有価証券 50万円/有価証券利息 50万円
  • 現金預金 1億円/投資有価証券 1億円

【キーワード】 償却原価法

金利の調整を原因とする額面金額と購入金額の差額について、時間の経過とともに調整していく方法。


 償却原価法の詳細な計算方法としては2つあります。

  • 利息法
  • 定額法(こちらがメイン)

ですが、簿記試験上は定額法だけ押さえておけば問題ありません。

 有価証券については、保有目的や株価の有無によって、含み損益の処理が変わってくるので、皆がつまずきやすいところです。考え方と具体例を考えながら、理解していくとよいでしょう。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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