倒産してもJALはなくならない! 会社更生法を知ろう:お茶でも飲みながら会計入門(27)
意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
今回のテーマ:なぜ、会社は倒産しても存続できるのか?
日本航空(JAL)は19日、東京地裁に会社更生法の適用を申請し、受理されたと発表した。<中略>負債総額は2兆3221億円となり、事業会社としては戦後最大、負債の多い金融業を含めると戦後4番目の大型経営破たんとなる。(ロイター通信 2010/1/20記事より抜粋)
各メディアで大きく取り上げられているとおり、日本航空(以下JAL)が会社更生法の適用を申請しました。会社更生法の適用の申請は経営に行き詰った際に行われるため、通常「倒産」と呼ばれています。しかし、「倒産」といってもJALが存続できないわけではありません。それでは「倒産」とは何なのでしょうか。JALの倒産を理解するには、「会社更生法」について掘り下げる必要があります。今回は、JALが適用を申請した会社更生法について解説します。
【1】倒産を分類する
通常、倒産と呼ばれる状況は主に下記のケースがあります。
- 会社更生法の申請
- 民事再生法の申請
- 特別清算の開始申請
- 破産申請
- 他、私的整理など
これらのうち、会社更生法・民事再生法は自主再建を目的とし、特別清算・破産申請は清算して会社をたたんでしまうことを目的とします。JALが申請した会社更生法は再建を目的としたものですから、JALは当然今後も存続します。ただ、JALが本当に再建できるかどうかは、当然これからの動向しだいです。
しかし、もし会社を存続するのであれば、会社更生法を適用せずともコスト削減や今後の見通しについての経営計画を提示すれば足りるのではないかとも思えます。会社更生法を適用すると、具体的にどのようなことが起きるのでしょうか。
【2】会社更生法とは
会社更生法の適用を申請するということは、端的にいってしまうと、更生会社(JAL)が「今抱えている債務を全額返済しきれないので、大幅に免除してほしい」とお願いしたということです。
そのため、JALに対して何らかの資産をもっている人は大きな衝撃を受けます。株式が無価値になる可能性が高まります。株主はいわば会社のオーナーです。JALは返済義務のある債務を返すことができないといっているのですから、オーナーが自分の持分を主張できないのは当然と考えられます。とはいえ、株主に追加の資金負担は求められません。
一方、JALに対する債権については、原則として「平等」に何割か切り捨てられることとなります。法律上、JALは「債権者Aには、大変お世話になったので全額返済し、債権者Bには半額しか返済しない」などと勝手に決めることはできません。切捨て割合は、ケースによってさまざまですが、場合によっては半額以上切捨てられることも十分起こりえます。
ただし、会社更生法は「平等」について柔軟に解釈することを認めており、同一の種類の権利を有する者の間に差を設けても衡平を害しない場合は、差を設けることを許容しています。JALの場合は、事業継続に不可欠な債権については切捨ての対象とならない予定です。
例えば、これから購入する燃料の購入代金が何割か切り捨てられることになってしまうと、誰も燃料を売ってくれません。すると、JALは事業を継続することができず、再建を目指すことができなくなってしまいます。社会に与える影響も非常に大きいでしょう。そのため、事業継続に不可欠とされる商取引債権やマイレージなどについては保護される予定なのです。つまり、JALの場合は、主に金融債権などについて、大幅に切り捨てられることなります。
更生会社の経営陣は、通常、刷新され新経営体制となります。JALにおいても、取締役は全員退任し、新経営体制となる予定です。さらにJALは、これから会社更生計画を策定し、どのように再建していくのか及び債権の取り扱いを提示します。債権・株式が具体的にどのような取り扱いになるかは、最終的には更生計画次第です。
ちなみに民事再生法はいくつかの違いがありますが、再生計画により債権の切捨てが定められるなど、ごく基本的な部分については会社更生法と大きく変わるものではありません。
【キーワード】 会社更生法
会社が自力ですべての債務の返済ができなくなったことを理由として、再建を目的とした更生手続を行う場合について定められた法律。株式は通常、価値が大幅に減少する。また、債権は平等に何割か切り捨てられる(ただし、衡平を害しない限りは取り扱いに差を設けることができる)。
自分の関与している顧客が倒産した場合に一番肝心なことは、すぐに経理部などの管理部門に相談することです。商品の所有権が得意先に移ってしまってから、法的整理が開始されてしまうと、債権が全額戻ってくることはまずありません。JALの場合は商取引債権が保護される予定ですが、原則的には、商取引債権も平等に切り捨てられてしまいます。
JALについて、第20回「JALの危険性が分かる貸借対照表の読み方」でも取り上げていましたが、やはり危険な状態だったようです。株式投資をされているのであれば、「JALの危険性が分かる貸借対照表の読み方」で取り上げたように、投資先の最新の貸借対照表をあらためてチェックされるのがいいかもしれませんね。それではまた。
筆者紹介
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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