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日本企業の決算日、「3月末」が多い4つの理由お茶でも飲みながら会計入門(36)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

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本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:決算月は、企業によってなぜ違うのか

 すべての企業は決算日を定め、決算日時点の財政状態および決算日で終了する1年間の経営成績をまとめて、財務諸表を作成します。表1は、有価証券報告書を提出している会社の決算期を、月別にまとめたものです(『会計・監査ジャーナル』2010年7月号p.155より抜粋)。

1月 2月 3月 4〜11月 12月 合計
73 239 3087 651 369 4419
表1 有価証券報告書を提出している会社の決算期

 日本企業の多くは、決算日を3月31日に設定しています。なぜ、3月31日が多いのでしょうか。また、ほかの決算日にした場合はどのようなメリットがあるのでしょうか。今回は「決算日」について解説します。

【1】 決算日前後のスケジュール

 会計という切り口で見たときに、決算日前後にはどのような作業や出来事があるのでしょうか。以下に、一般的なスケジュールを図示します。

 決算日後の約2カ月間は、決算作業のため経理部は非常に忙しくなります。経理担当は、さまざまな作業を行います。例えば、カウントした在庫の集計や原価計算、消費税・法人税の申告書の作成、科目明細の作成などです。

【2】 3月決算が多い理由

 3月決算が多い理由として、主に以下の4つが考えられます。

(1)国や地方公共団体の予算編成期間は4月〜翌年3月であり、3月には売り上げが増加する傾向がある

 公的機関は作成した予算に基づいて発注を行うため、発注が3月に集中する傾向にあります。仮に2月末日を決算日とした場合、2010年3月の売り上げが登場するのは、2011年2月末日の決算書です。3月31日を決算日に設定すれば、売り上げをいち早く経営成果として決算書に登場させられます。

 企業も公的機関と同様に、決算日までの1年間について予算を立てます。上記の理由から、多くの企業が3月31日を決算日として設備投資予算を作成します。すると、企業を相手に商売するSI企業なども、結果として3月31日決算にすることが多くなります。

(2)総会屋対策

 以前に比べると話題に上ることが少なくなりましたが、株主総会で株主の権利を乱用して会社に不当に金銭などを要求する「総会屋」というグループが存在します。その昔、株主総会に総会屋を出席させないために、大企業は「株主総会を6月末の同一日に一斉開催する」習慣がありました。

 株主総会を6月末に合わせるために、3月31日を決算日とする企業が多かったようです。そのため、昔からある企業は、3月31日が決算日であることが多いです。

(3)税法の改正が4月1日からの適用が多い

 最近では、2007年にリース関連の税制改正がありました。リースの新ルールは、2008年4月1日以降に契約するリース契約について適用することとなっています。仮に、決算日を3月31日以外とするとどうなるでしょうか。会計年度の途中でリースについての経理処理の方法を変更しなければならなくなり、作業が煩雑になります。そこで、多くの企業が改正時期と会計期間を合わせることにしているのです。

(4)教育機関の年度区切りが3月である

 教育機関は、3月が年度の区切りです。そのため、新卒社員は4月入社の場合がほとんどです。年度の区切りによって営業成績などが評価されることから、入社○年目という区切りと、会計年度の区切りを一致させておくことに利点があります。

【3】 ほかの決算日とそのメリット

 では、別の決算日にすると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

 3月31日の次に多い決算日は12月31日です。12月31日決算とすると、以下のようなメリットがあります。

(1)海外では12月決算の会社が多く、連結決算がスムーズ

 連結決算では、原則として、親子会社の決算日を統一する必要があります。アメリカや中国、ヨーロッパにおいては、12月決算の会社が圧倒的に多いため、海外に親会社を持つ外資系企業や、世界に子会社を持つような輸出メーカーは自社の決算日を12月31日にしておくことによって、連結決算をスムーズに行えます。

(2)生産や販売のラインを止めやすい

 本屋や洋服屋などで、「一斉棚卸しのため、○月○日は早く閉店します」といったお知らせを見たことはあるでしょうか。それらを見ても分かるように、決算日の棚卸しは、生産・販売ラインをストップさせる方が、ぐっと在庫の確定がスムーズになります。この点、12月31日は(小売りを除いて)休業である企業が多いため、棚卸しの観点から見ると、12月31日決算であることに合理性があります(数える人は休日出勤となってしまいますが……)。

 次に多いのは2月末決算です。2月末決算は、小売業界に多いといわれています。小売業界は1月と7月がバーゲンセールのために最も忙しい時期となります。繁忙期を避ける意味で、2月を決算日としているのです。

 

 ちなみに、最近設立された会社の中には、上記以外の決算日も多くあります。ほかの月を決算日とする会社もありますし、3月20日を決算日とする会社も少なからずあります。決算日が集中すると、税務業務を委託する税理士に引き受けてもらいにくくなるため、決算日をずらすことにはメリットがあります。

 最後に、「決算作業」についておさらいしておきましょう。

【キーワード】 決算作業

 決算作業……決算日後において、決算書を作成する作業のこと。株主総会や税務申告期限があるため、迅速性が要求される。決算作業中は経理チームに高負荷がかかる。


 なお、上場企業であれば4半期決算を行う必要があり、3カ月ごとに決算作業を行わなければいけません。4半期決算は、年間の決算よりは簡便な手続きでよい部分もありますが、それでも大変です。自社や得意先の決算日と会社の経理チームの繁忙期間を把握しておくとよいですね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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