これで2級もバッチリ! 簿記攻略のための下書きワザ:お茶でも飲みながら会計入門(77)
意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
11月には簿記試験が実施されますね(2012年の試験日は11月18日)。皆さんの中にも、今回もしくは近いうちの受験を考えている人がいると思います。私もエンジニア時代に簿記試験を受験しました。
そこで今回は、簿記試験の勉強法について、自身の体験を交えてお話ししたいと思います。
【1】簿記3級編――仕訳のルールを体得してしまえば楽しい!
簿記3級では、商業簿記の範囲から問題が出されます。
3級合格のために一番重要なことは
「仕訳の構造」と「決算書へのつながり」を、体に染み込ませること
です。具体的な仕訳と決算書作成の方法は、第22回「会計界の洗練されたプログラミング言語――複式簿記」で解説しているので、そちらをご参照ください。
仕訳は簿記の世界の基本的なルールであり、3級から2級、1級と級が上がっても、そのルールが変わることはありません。
ルールを体得するには、自分で何度も仕訳を書いてみるのが一番早いです。問題を見て、その取引がどのような仕訳になるかを答えるのです。そして、それぞれの勘定科目が増えるのか減るのかを考えます。
ところで、「ルールを知る」というのはとても退屈な行為ですね。私は趣味で囲碁をやるのですが、友人から「囲碁を始めようとしたけれど、ルールがよく分からずにやめてしまった」という話をよく聞きます。そんなとき「ルールを知ると面白いのになぁ」と思うものです。皆さんも自分の趣味について、そんな経験をされたことはないでしょうか。
簿記は趣味とは違いますが、ルールを理解すると、多少は面白いと思える部分が出てきます。
私は3級のハードルが、このルール理解にあると思っています。もともとエンジニアは「知る」ことを楽しめる人が多いように思います。誰もが最初に苦しむところだと考えて、取り組んでみてください。
【2】簿記2級編――間違えにくい下書きの作り方
次に簿記2級についてです。2級では商業簿記だけでなく、工業簿記の範囲からも出題されます。商業簿記についても、かなり複雑な問題が出ます。こちらについてはさらに踏み込んで、試験対策をお話ししようと思います。
2級は、第1問〜第5問の5分野で出題されます。
第1問では、仕訳を答える問題が5題出されます。他の問題に比べてそれほど時間はかからないのですが、特別な取引について広い範囲から出題されるため、実は完答が難しいと思います。いくつかの論点は過去に繰り返し出題されているため、過去問をこなすのがいいでしょう。
次に第2問と第3問ですが、どちらも与えられた情報を仕訳にして、残高試算表や決算書を作成する問題です。
この2問は時間がかかるものの、高得点を取りやすい問題だと思います。ポイントは間違えにくい下書きの作り方にあります。実際に私も過去問を解いてみました。その際の下書きをサンプルとして挙げておきます。
試験会場では、A4サイズの計算用紙1枚が配布されます。これを縦に4つ折りします。
縦4列を2つずつの組にして、右側に仕訳を、左側に金額を算定するための計算過程を書きます。よく使う勘定科目は、自分なりの略号を作って置き換えます。例えば、「Cは現金預金を示し、UKは売掛金を示す」というようにです。数字の末尾000は「―」で端折ります。
すべての取引について、仕訳を切ったら集計していきます。集計の際、使った仕訳には下線を引きます。そうすることによって、最後に漏れがないかを確かめることができます。
最後に第4問、第5問ですが工業簿記であり、これまでの商業簿記とは違った趣向で出題されます。これについては勘定連絡の仕組みを理解するのが大切です。本連載でも以下で解説しているので、読んでみてください。
- 第43回「勘定科目はサーフィンに似ている? 原価計算入門」
- 第45回「SI企業は、原価=エンジニアをどう計算するのか?」
- 第46回「製造業が成功する鍵を握る?『標準原価計算』」
ちなみに工業簿記では割り算をすることが多いのですが、私が記憶している限りでは、簿記2級試験で数字が割り切れなかった問題はありません。それをヒントにするとよいでしょう。電卓で割り算をしたとき、小数点以下に数字が並ぶようだったら、どこかが間違っていると思ってやり直した方がよいと思います。
今回は簿記試験について見てきました。この記事を執筆している喫茶店でも、簿記試験の勉強をしている人を見掛けます。記事を読んでいる皆さんの試験の合格をお祈りしております。それではまた。
お知らせ
お茶会計、書籍化!
ITエンジニアのための会計知識41のきほん
吉田延史(仰星監査法人/公認会計士) 著
インプレスジャパン
2012/02/17
ISBN-10: 4844331485
ISBN-13: 978-4844331483
1575円(税込)
@IT自分戦略研究所の人気連載「お茶でも飲みながら会計入門」が1冊の本になります!
「システムしか知らないエンジニア」と言われないために、身近な実例満載で楽しく教養力アップ!
筆者紹介
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
- 年収1000万円のエンジニアと年収600万円の営業、配偶者控除を受けられるのはどっち?
- 決算短信で読み解く「アイティメディア」の財政状況
- 会計士が解説する「FinTech(フィンテック)って何ですか?」
- なぜ東芝の不正会計事件で「新日本監査法人」に処分が下ったのか?
- 損益計算書に登場する5つの利益“+1”2015年版
- 東芝はどのように工事進行基準を操作して不正を行ったのか
- 実録 あるエンジニアが公認会計士に転身するまで
- 新入社員が必ず知るべき会計用語10選
- 【やってみた】クラウド会計ソフトを使って確定申告の計算をしてみた
- 税込み108円のコーヒー、売り上げは幾ら?
- 円安で得する会社、得しない会社
- 昇給したのに手取りが減った〜あるある話で学ぶ「住民税」
- 泣いたって許されない 経費や政務活動費の不正利用
- PERとPBRと配当利回り〜投資のための指標入門
- 残された5人〜事例で学ぶ「適時開示」入門
- 野原家の収支事情で学ぶ、連結決算の行い方
- 3分で分かる株式入門
- なぜ防げなかったのか〜 IT業界の不正事例
- 売上検収×債務支払×給与 新春三題噺
- 増税反対、5%しか払いません これって誰か損をする?
- トルネコは幾つそろばんを売ればいいのかな?
- 100万円の出どころは? 投資はこうして破綻する
- これで合格!? ITエンジニアのための簿記3級まとめ
- 補助簿で確認。いちごクレープ何枚売れた?
- 「ITエンジニアと会計」素朴な疑問に一挙回答!
- 「そういえばもらったかな?」源泉徴収票を見てみる
- 残った傘は何本ある? 分記法と三分法
- 現金持ってるのと同じ「小切手」、将来の約束「手形」
- 120万の車、3年乗って10万で売却。これって損? 得?
- これで2級もバッチリ! 簿記攻略のための下書きワザ
- 大阪城に非常階段を設置したら? 「固定資産」を考える
- 心の余裕・あせりを数値化する「経過勘定」
- 消費税の増税が、ITシステムに与える影響範囲を考える
- エンジニアは日経新聞のどこを読むべきか
- うっかり漢字間違いしやすい、会計用語まとめ
- うっかり混乱する“よく似た会計用語”まとめ
- 「純資産」=会社の価値を上げる、プランAとプランB
- 「うわ……私の支出、高すぎ?」転職時に知るべき支出のこと
- エンジニアのスタートアップで、会計知識はどれだけ必要か?
- 企業エンジニアとフリーエンジニアの社会保険料を比較する
- 社会保険料は、なぜこの額が天引きされるのか
- おいくらですか猫型ロボット――会計用語“のれん”を学ぶ
- ITベンチャーが採用する“ストックオプション制度”の正体
- オリンパスによる損失隠しの「飛ばしスキーム」
- 「会計のデバッグ」がお仕事! 監査法人入門
- 大王製紙の貸付金問題は、なぜ発見が遅れたのか
- 会計におけるWAN構築、「本支店会計」を知る
- エンジニアの勉強会費は、資産か費用か――繰延資産
- 残ったレッドブルはいくら? 「商品の繰越処理」基礎
- 馬券の例から考える、償却原価法の「金利の調整」
- 東京電力が保有するKDDI株から、「有価証券」を学ぶ
- 続・ITエンジニアとして知っておきたい21の会計知識【ニュース&社内業務編】
- ITエンジニアとして知っておきたい22の会計知識【簿記レベル編】
- ジャストシステムの株式売買から学ぶインサイダー取引
- SIerが出した見積書を、ユーザー企業はどう判断するのか
- IT企業はエンジニアの人月単価をどうやって決めているか?
- 個人に関わる、震災復興支援の税金制度まとめ
- 経理にとってのデスマーチ? 決算業務の過密スケジュール
- 「残念」発言で注目を集めた、MBO基礎
- 理想的なのに採用されないのはなぜ? 直接原価計算
- 製造業が成功する鍵を握る? 「標準原価計算」
- SI企業は、原価=エンジニアをどう計算するのか?
- 簿記はエンジニアの仕事で本当に使える? 会計資格・本音トーク!
- 勘定科目はサーフィンに似ている? 原価計算入門
- アプリ開発ビジネスで独立したら、「消費税」をどう納めるのか?
- アプリ開発ビジネスで独立するなら、知っておきたい「所得税計算」
- 武富士の経営破たんから、貸倒引当金を理解する
- 総額2兆円分! なぜ円高だと“為替介入”するのか
- 会計士が「これはよい!」と腹の底から思う「会計の良書」4選
- ゲームと現実の違いは? 「桃鉄」で減価償却を考える
- 日本企業の決算日、「3月末」が多い4つの理由
- 『美味しんぼ』の究極のメニュー、製造原価はいくら?
- すべての道は会計システムに通ず――会計システム入門
- エンジニアも知っておきたい! 営業の基礎知識
- キャッシュ・フロー計算書から「粉飾決算」を読み解く
- 「なぜあんなに高額?」役員給与を決めるのは誰か
- 意外と知らない? 「退職金」の種類と計算方法
- 元ITエンジニア3人が語る、会計士も楽じゃない!
- 「事業仕分け」「修正予算」って何? 国家予算の全体像
- 倒産してもJALはなくならない! 会社更生法を知ろう
- 公認会計士の「就職難」はなぜ起こっているのか?
- 還付超過はなぜ起こる? 法人税を理解する5W1H
- 年末恒例イベント「年末調整」を理解する
- 知っておいて損はない! 給与明細の見方
- 会計界の洗練されたプログラミング言語――複式簿記
- 出光の営業利益が80億円増加した理由
- JALの危険性が分かる貸借対照表の読み方
- 値下げの限界はどこ? “高速料金800円”の真実
- トヨタが赤字でも株主配当できた理由
- エンジニアのための景気底打ちとIT投資の仕組み
- システム受注にも使われるリース取引の会計処理
- 損益計算書に登場する5つの利益
- 買収の対価って? ローソンのam/pm買収に学ぶ
- 自分が払った消費税、どうやって納められているの?
- ITエンジニアになぜ会計は必要なのか
- 任天堂の減益から読む、円高が会計に与える影響
- 税法と企業会計のずれから生まれる繰延税金資産
- 会計監査でIT全般統制をチェックする理由
- キャッシュ・フロー計算書の仕組みと見方
- 国際会計基準が日本にもやってくる
- IT企業で仕組まれやすい、循環取引の構造
- 決算書をお化粧する、連結外しの仕掛け
- システム導入にかかるコストを損益インパクトで見る
- 黒字倒産が起きるわけとその対策
- 有価証券報告書で気になる企業の給与水準が分かる
- 連結決算って何を連結しているの?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.