ただ、どちらのプラットフォームにコンテンツを提供するにしても、インディにとって少々気になることもある。「サポート」だ。
そもそも、ドコモのユーザーというのは、ドコモが長らく続けてきた垂直統合型の事業モデルの中で、「安心安全」「至れり尽くせり」のサポートに慣れている。慣れ切っている。そのため、有料のアプリが動かなかったりしたら、それこそ、ドコモショップに駆け込むなどの大騒ぎになるのではないか、と心配なのだ。
「ドコモマーケット(iモード) サービスガイドライン ver0.9」を読むと……、
とあるのだが、果たしてドコモが、AppleやGoogleがやっているように、「マーケットは提供するけど、後のことは当人同士でよろしくね」という姿勢を貫けるのかどうか心配だ。それにそもそも、ユーザーの側がそれで納得するのだろうか。ガイドラインには、そううたわれてはいるものの、NTTドコモの山下氏も「安心安全をウリにしてきたドコモとして、一切関知しない、という姿勢は許されない」と苦悩の表情を浮かべる。
それに、一般的なガラケーのドコモユーザーというと、必ずしも端末操作リテラシーの高い人ばかりとは限らないという感覚があるだけに、提供者の側に、短期間で大量の問い合わせが来る可能性だってある。で、ガイドラインには、こんな恐ろしいことも書いてある。
とにかく、「ドコモマーケット(iモード)」は、米国生まれのApp StoreやAndroid Marketとはまったく異なる世界観で回っていきそうな予感がするだけに、どうなるのか心配だ。
それは、「ドコモマーケット」で提供されるAndroidアプリについてもいえる。そのあたりの処理を円滑に行うために「Webベースでの問い合わせの窓口のようなものを模索している。日々、苦悩している」(山下氏)と明かす。
確かにそうだ。いざフタを開けてみたら、ユーザーはアプリの操作や動作に不満を持ち、開発者は問い合わせ対応で疲弊、NTTドコモはその板挟みで消耗、なんてことになると、誰もハッピーではない。
ただ、そのためにコンテンツの事前審査があるので、それほど神経質になる必要もないとは思う。山下氏は「審査は、動作チェック、公序良俗などあくまでもミニマムで、期間は2週間程度」(Androidアプリの場合)という。App Storeで一斉削除事件があったグラビア写真集のようなお色気系の扱いについては、「基本的に提供者の判断に委ねるが、是々非々で柔軟に対応したい」(山下氏)と明かす。印象としては、ウルサイApp Storeと放任主義のGoogle Marketの中間といったところだろうか。
「期待は否が応でも高まる」などとあおっておきながら、ちょっとネガティブな話になってしまったが、もしかしたら、サポートの心配など取り越し苦労なのかもしれない。
世界感が異なるとはいうものの、有料のiPhoneアプリで数十万ダウンロードを記録したある個人開発者は、「クレームのようなメールはほとんど来ない」という。数万ダウンロードに達している筆者が開発したiPhoneアプリにしても、クレームらしきメールは1通来ただけだった。まあそれも、ユーザー側の操作不勉強が原因だったりしたので、事実上ゼロ。つまり、ちゃんとテストして、動作するものを提供していれば、それほど心配する必要はないということか。iアプリの場合、検証すべき機種が多すぎるのが気掛かりだが……。
インディも参加可能なこの巨大なマーケットでどんなアプリを提供するのか、開発者の皆さんは、いまから大いに知恵を働かせているところだろう。
技術に疎い筆者的には、iアプリにしてもAndroidアプリにしてもベースの技術は双方ともJavaなので、1粒で2度おいしい開発ができる! などと喜んでいたのだが、テックファーム取締役副社長の小林正興氏は、「同じJavaでも設計時期や思想が異なるし、APIもまったく別なので、異なる2つのアプリを作ることになる」と筆者の勇み足をいさめる。「Androidは、地図やブラウザを表示させようと思えば該当するAPIを呼び出すだけで可能だが、iアプリでそれをやるのは大変な作業」とも。
しかしその一方で、「パックマンやテトリスといったような、ポンチ絵ベースのシンプルなゲームを作るのであれば、iPhoneやAndroidより簡単なのではないか。iアプリの世界観を駆使してアイデアを出せば、面白いものができる」(テックファームの小林氏)と付け加える。
テックファームでは、NTTドコモの名義で「AppliStudio」というiアプリの開発支援ツールを無償で提供している。ロジックの部分は自分でコーディングする必要があるが、このツールを使うことで開発作業がかなり省力化でき、クリエイティブな部分にリソースをつぎ込めるだろう。また、「10月中に公開予定の最新版では、Androidアプリの設計も同時に可能」(小林氏)と教えてくれた。
なるほど、ロジック部分は別のアプリになるとはいえ、画面遷移といった基本設計は共通化できるということだ。素晴らしい。
筆者としては、「21世紀のゴールドラッシュ」で沸き立ったApp Storeの再来を「ドコモマーケット」でも期待したいところだし、それを夢見ているインディもたくさんいるだろう。
そのあたりの「目先の金もうけ」があれば、話題になって盛り上がると期待しているに違いないと思い、NTTドコモの山下氏に、そのあたりの考えをぶつけてみたのだが、「もうけは後から付いてくるもの。まずは自分が面白く楽しめるものを作らないと、ユーザーの共感を得られない。お金もうけが先に来るとうまくいかない」と、あっさりとかわされてしまった。
まあ、確かにそうだ。App Storeでのヒットアプリを見ていると、「こんなのあれば楽しい」とか、「便利だ」とか、開発者が楽しんで作っているものが多い。
筆者だってそうだ。楽器のアプリを作ったのも、それに賛同してくれる人がいようがいまいが、自分のマニアックな趣味の世界をiPhone上にさく裂させたくて、ほぼ自己満足に近い形で開発したわけだ。幸い、世界中で数万人は賛同してくれているので、結果オーライでよかったね、というところだが。
とはいえ、「1500万円じゃん!」に期待しないといえばウソになる。App Storeの成功者で、億単位、ン千万円単位の売上を得たインディは、国内ではそれほど多くはないだろう。数えるほどかもしれない。しかし、ン百万円単位の売上を得たインディならば、結構たくさんいるはずだ。実際、筆者もAppleからの入金ベースで、年間ン百万円のアプリ収入はある。
これはあくまでも筆者の感覚というか、ニオイで判断した結果だが、筆者の開発したiPhoneアプリのランキングへの登場の仕方を基に考えると、筆者と同レベルの収入を得ているインディ系のアプリ開発者は国内にゴロゴロいるはず。年間ン百万円というのは、事業として見たら厳しいものがあるが、週末プログラマー的には、おいしいお小遣い稼ぎだろう。だからこそ「ドコモマーケット」にも「1500万円じゃん!」を期待してしまうのだ。
だからあえていう。インディよ「ドコモマーケット」で稼ごうぜ!
山崎潤一郎
音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライター稼業もこなす蟹座のO型。iPhoneアプリでメロトロンを再現した「Manetron」、ハモンドオルガンを再現した「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。音楽趣味はプログレ。近著に、『ケータイ料金は半額になる!』(講談社)、『iPhoneアプリで週末起業』(中経出版)がある。TwitterID: yamasaki9999
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