アイデアを世に問う試金石? クラウドファンディングの可能性ものになるモノ、ならないモノ(56)(2/2 ページ)

» 2014年08月07日 18時00分 公開
[山崎潤一郎@IT]
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運営側が十数%から20%の手数料を差っ引くことは覚えておこう

 目標額の設定についても「3分の1ルール」が目安となる。「自助努力金額の3倍を基準として設定することが多い」(上村氏)という。

 また、募集の期間は、クレジットカード決済のルールに沿う形で、最大で90日までの設定が可能だが、多くは30〜45日がお勧めだそうだ。長すぎると気力や体力が追いつかなくて息切れするケースもあるという。「お祭り感覚で、30日程度に設定して一気に募集する方がいい」(上村氏)と秘訣を教えてくれた。

 残念ながら、目標額に達しなかった場合はどうなるのか。募集締め切り後の資金については、2通りの考え方がある。1つは、オール・オア・ナッシング型と呼ばれるもので、目標額に達しない場合は、支援者の課金も、プロジェクトオーナーへの支払いも発生しない。サイト運営側にも手数料収入が入らない。

 一方、オール・オア・ナッシング型ではない方式(サービスにより名称が異なる)では、目標額未達成の場合でも支援者の課金が発生し、集まった資金がオーナー側に支払われる。目標額に達しなくても成立するだけに、主に実行中、あるいは実施されることが決まっている活動などの資金調達や増資に向いた方式といえる。

 注意したいのは、いずれの場合も、集まった資金の全額がオーナー側に引き渡されるわけではないという点。サイト運営側が十数%から20%の手数料を差っ引くことは覚えておきたい。オール・オア・ナッシング型で目標額に達せず不成立の場合は、手数料は発生しない。

 クラウドファンディングにまつわるお金の仕組みを理解すると、プロジェクトオーナーが努力すれば、情報が比較的拡散しやすい構造になっていることが分かる。前述の「3分の1ルール」で示した三者のステイクホルダーそれぞれに、プロジェクトの成立を目指す理由がある。つまり、インセンティブが働いているのだ。そのため、通常のネット通販と比較すると情報が広まりやすいという性格を持ち備えている。

3000円から5000円のゾーンが支援件数が最も多い

 支援者へのリターン(ギフト)をどのように設定するかも目標達成の成否を左右する。

大日本印刷の石川冴子氏

 例えば、プロダクト系やミライブックスファンドの出版系のプロジェクトであれば、完成した製品や書籍を支援者に届ける、というのがまず考えられる。その場合、単に商品を届けるだけでなく、「そこでしか得られないプラスアルファを設定することが大切」(大日本印刷の石川冴子氏)だという。

 ただ、プラスアルファにコストを掛ける必要はなく、書籍であれば、「奥付に名前を載せる」「企画会議に参加する権利を与える」「著者と語らいの場を設定する」、といった「そこでしか得られない特別な体験や経験を設定する方が喜ばれる」(大日本印刷の早坂悟氏)そうだ。

 しかし、イベント系プロジェクトなど、「モノ」がない場合のリターンは、どのように設定すればいいのだろうか。そのような場合も、キーワードは「そこでしか得られない体験」だ。例えば、企画会議やリハーサルに参加できる、といった内容を設定するといいそうだ。支援者にとっては、企画に参加したり裏舞台を見ることができることが、喜びの1つになり、支援の動機にもなる。

 支援額を設定する場合も、リターンの内容が大きく関わってくる。「平均額は1万円程度だが、3000円から5000円のゾーンが支援件数が最も多く、この価格帯のリターン内容を充実させることをお勧めしている」(シューティングスターの上村氏)という。一方、リターンにお礼のメールや動画メッセージを設定した1000円程度の価格帯は、安価を理由に支援が集まりやすい気もするが、「それよりも、成果物がある一段上の価格帯の方が人気が高い」(大日本印刷の早坂氏)そうだ。

失敗を恐れない精神を

 今回取材した2つの事業者に、今後、どのようなプロジェクトに応募してほしいのかを尋ねた。

 シューティングスターでは、プロダクト系のプロジェクトにたくさん来てほしいそうだ。米国のKickstarterを見ると「Pebble Watch」や「Oculus Rift」に代表されるプロダクト系のプロジェクトが確かに目につく。

 一方、この分野、日本ではいまひとつ盛り上がっていない。「ものづくりニッポン」の精神はどこに行った、という感じだが、製品のプロトタイプやモックを作らなければならないので、ハードルが高いのだろう。

 ただ、最近は環境も整いハードルも下がりつつある。「3Dプリンターでモックを作り、使用シーンがイメージできる動画があれば、支援者も製品の良さを理解しやすい」(シューティングスターの上村氏)ということなので、ハードウェアのアイデアがある人はぜひともチャンレジしてほしい。日本発の気の利いたガジェット系プロダクトが登場すると多くの人が応援すると思う。

大日本印刷の早坂悟氏

 一方、「好きなコンテンツに関わりたいという思いを抱いている人が増えているように感じる」と明かすのは、大日本印刷の石川、早坂の両氏だ。コンテンツに対する好みが細分化している中、“ファンは1000人しかいないが、その1000人はコアなファンだ”といったコンテンツこそ、クラウドファンディング向きだという。コアなファンなら、コンテンツ作りに参加したり、その舞台裏を見たいという気持ちも強く、支援が集まり易いというのだ。

 最後に、クラウドファンディング関係者が口をそろえて言ったのが、「失敗を恐れるな」ということ。日本では「成立しなかったら恥ずかしい」という気持ちが先行しがちだそうだが、中には、不成立を繰り返してもなお、幾度も挑戦する強者もいるそうだ。筆者も現在仲間と共同で、プロダクト系のプロジェクト立ち上げる準備している。自分の中にあるクリエイティビティをクラウドファンディングを通じて世に問うてみたいと思う。

「ものになるモノ、ならないモノ」バックナンバー

著者プロフィール

山崎潤一郎

音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライターもこなす。大手出版社とのコラボ作品で街歩き用iPhoneアプリ「東京今昔散歩」「スカイツリー今昔散歩」のプロデューサー。また、ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。音楽趣味はプログレ。OneTopi「ヴィンテージ鍵盤楽器」担当。近著に、『AmazonのKindleで自分の本を出す方法』(ソフトバンククリエイティブ刊)がある。TwitterID: yamasaki9999


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