有価証券報告書で気になる企業の給与水準が分かる:お茶でも飲みながら会計入門(2)
意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど。すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
今回のテーマ:有価証券報告書をつまみ読み
勤め先、仕入先、得意先、委託先など、われわれは仕事を通して、さまざまな企業と接します。企業について知る最も良い方法は、各企業に勤める人たちとコミュニケーションを取ることでしょう。
他方、上場企業であれば「有価証券報告書」(以下、有報)によって企業情報を得ることができます。有報には、(連結)財務諸表など会計に関することだけでなく、さまざまな情報が掲載されています。会計知識がないと読めない部分も多いですが、ここでは特に会計の知識がなくても興味を持って読める項目について解説します。有報を少しでも身近に感じていただければと思います。
【1】知りたい企業の情報、どうやって入手する?
昔は冊子でしか有報を入手することができませんでしたが、いまは、「EDINET」という金融庁の電子開示システムで見ることができます。企業は、決算日から3カ月以内に金融庁へ有報を提出します。また、このEDINETを利用すれば、「四半期報告書」や「大量保有報告書」も見ることができます。
【2】有報を実際に見てみよう!
ITベンダ大手のNTTデータと日本ユニシスの、平成20年3月期の有報について見ていきましょう。
(1)従業員の平均年間給与
「第一部 企業情報 ⇒ 第一 企業の概況 ⇒ 5 従業員の状況」を見てみましょう。「提出会社の状況」という項に平均年間給与の記載があります。従業員の平均年齢や平均勤続年数も記載があります。
NTTデータ(EDINETの提出者名称「エヌ・ティ・ティ・データ」)は平均年齢35.8歳、平均勤続年数12.3年、平均年間給与約806万円、日本ユニシス社は平均年齢41.4歳、平均勤続年数14.3年、平均年間給与約840万円であることが分かります。両社を比較するとNTTデータの方が若い人が多く、平均年間給与が低いですね。ただし、平均年間給与は平均勤続年数が高い方が通常高いと思われるので、同年齢でどちらの給与が高いかは、これだけでは分かりません。
(2)役員の報酬
役員の報酬も見ることができます。「第一部 企業情報 ⇒ 第四 提出会社の状況 ⇒ 6 コーポレート・ガバナンスの状況」を見てみましょう。「役員報酬の内容」という項に記載があります。取締役について見てみると、NTTデータは8人で2億9600万円(1人当たり3700万円)、日本ユニシスは10人で4億500万円(1人当たり4050万円)であることが分かります。取締役となるとさすがに高収入ですね。
(3)監査報告書の追記情報
会計監査人が有報記載事項の中で、特に重要と判断した内容は、「監査報告書」上で追記情報として記載します。当期の監査報告書を見てみましょう。グループ全体を対象とする「連結財務諸表」に対するものと、提出会社1社だけを対象とする「財務諸表」に対するものがあるのでどちらもチェックします。追記情報は報告書内末尾に近い部分に記載されます。
NTTデータでは、リース取引に関する会計基準の早期適用および、今後予定している社債の発行(1000億円)について追記情報が記載されています。日本ユニシス社では記載はありません。追記情報には、会計の知識が多少必要となるものもありますが、分かる範囲で、見ておいて損はないでしょう。
有報を見ると、企業の違った一面が垣間見えるかもしれませんね。それではまた。
筆者紹介
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。
イラスト:Ayumi
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