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すべての道は会計システムに通ず――会計システム入門お茶でも飲みながら会計入門(34)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

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本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:家計簿を例に取って会計システムを知る

 今日、我が社が開発して売っているビジネスソフトは、どんな業種向けであろうとも、必ず中心に会計ソフトが組み込まれている(2010年6月26日 日経新聞朝刊「オービック会長兼社長 私の履歴書」より抜粋)

 企業の取引は、最終的には会計に反映されるものがほとんどです。情報系などの一部のシステムを除けばほぼすべて、会計システムとの連携があると思われます。そこで今回は、連携先となる会計システムの全体像を、われわれに身近な家計を例に取りながら解説します。

【1】 会計システムの全体像

 まずは、会計システムの全貌を見ておきましょう。

 現在の企業会計は複式簿記を採用していて、会計システム上のデータの登録はすべて仕訳から行います。登録した仕訳を項目ごとに集計したものが「残高試算表」です(第22回「会計界の洗練されたプログラミング言語――複式簿記」参照)。ここでいう「項目」とは「現金」や「預金」「売り上げ」などのことで、これらは「勘定科目」と呼ばれます。

 残高試算表を見れば、各勘定科目の残高がどれくらいか知ることができます。では、その金額の内訳を知りたい場合はどうすればよいでしょうか。その際は「総勘定元帳」というビューが有用です。総勘定元帳は、各勘定科目の残高となるまでの仕訳を時系列で表したものです。

 各勘定科目の仕訳ベースでの内訳を見るときには総勘定元帳が有効ですが、勘定科目ごとに、別の切り口での内訳が必要となることもあります。その場合には、補助科目を用います。

 以上のことを、A君の家計簿を例にして考えてみましょう。

【2】 A君の家計簿(7月23日)

 A君の7月23日朝の時点での、各科目の残高は以下のとおりとします。

科目 金額 科目 金額
現金 9,500 純資産 97,480
銀行預金 487,100 給与収入 1,200,000
Suica 880    
生活費 800,000    

 この日、A君には以下のような出来事がありました。

 (1)朝、駅の売店で週刊誌を500円で購入した

 (2)昼食で1000円支払った

 (3)仕事が終わって、彼女と会うために電車で池袋に向かった。電車賃は300円だった

 (4)彼女に食事をおごって、7000円支払った

 (5)池袋で解散し、帰途に就いた。家の最寄り駅までの電車賃は170円だった

 (6)現金が少なくなったので、銀行ATMで2万円下ろして、帰宅した

 家計簿は複式簿記ではありませんが、今回は会計システムの流れをつかむため、あえて上記の設定で複式簿記を用いて、会計システムにデータ登録をしていきます。

 複式簿記においては、データ登録は仕訳によるほかないので、(1)から(6)まではすべて仕訳として会計システムに登録していきます。仕訳は以下のとおりです。

 (1)生活費 500 現金  500

 (2)生活費 1000 現金 1000

 (3)生活費 300 Suica 300

 (4)生活費 7000 現金 7000

 (5)生活費 170 Suica 170

 (6)現金 20000 預金 20000

 (日付はすべて7月23日)

 今回、費用はすべて生活費としたため、同じ仕訳が並んでいますが、企業はもっと細かく費目を分けて仕訳します。

 A君は、上記項目を会計システムにデータ登録しました。次に、データ登録後の残高試算表を見てみましょう。登録されたデータの集計方法は第22回を参照してください。

科目 金額 科目 金額
現金 21,000 純資産 97,480
銀行預金 467,100 給与収入 1,200,000
Suica 410    
生活費 808,970    

 これで、7月23日夜の時点の各科目の残高が分かりました。3月決算の企業の場合、上記のような作業を続けて3月31日時点の残高を把握し、残高試算表をベースとして、貸借対照表や損益計算書を作成します。

【3】 総勘定元帳を見てみる

 A君は残高試算表を見て、けげんそうな顔をしています。帰宅してから確認した財布の中身と試算表の現金の金額が一致しないのです。試算表上では2万1000円あるはずなのに、財布には2万880円しか入っていません。

 こういったときに総勘定元帳を利用します。現金の総勘定元帳を見ることで、この日仕訳した項目のうち、現金に関連するものを確認できます。総勘定元帳は、預金通帳をイメージすると分かりやすいかもしれません。預金通帳と同じように、勘定の推移を時系列で追いかけられます。

●現金の総勘定元帳

日付 摘要
(相手勘定科目)
借方金額 貸方金額 残高
7/23 開始残高     9,500
7/23 生活費   500 9,000
7/23 生活費   1,000 8,000
7/23 生活費   7,000 1,000
7/23 生活費 20,000   21,000

 上記を見ながら、1日の出来事を振り返ります。そういえば、駅から帰る途中で缶ジュース120円を買ったのをすっかり忘れていました。そこで以下の仕訳を追加します。

(7)生活費 120 現金 120

 これで再度、残高試算表を見てみましょう。

科目 金額 科目 金額
現金 20,880 純資産 97,480
銀行預金 467,100 給与収入 1,200,000
Suica 410    
生活費 809,090    

 現金勘定の残高が財布と一致しました。

【4】 補助科目を使ってみる

 A君は、もう1ついぶかしい点に気が付きました。銀行のATM利用明細を見ると、預金勘定のつじつまが合いません。

 ・試算表の預金勘定残高……467,100

 ・ATM利用明細での残高……567,100

 そういえば、この日は給料日でした。A君の会社は25日払いなのですが、25日が日曜だったため、23日に支払いがあったのです。給料は20万円なので、さっそく仕訳します。

 (8)預金 200,000 給料収入 200,000

 しかし、まだつじつまが合いません。

 ・試算表の預金勘定残高……667,100

 ・ATM利用明細での残高……567,100

 A君はもう1つ思い出しました。A君は現金を引き出した甲銀行だけでなく、乙銀行にも口座を持っていたのです。その口座に10万円預けているため、上記のようなずれが生じるのでした。結局、以下のように一致が確認できました。

 ・試算表の預金勘定残高……667,100

 ・甲銀行のATM利用明細での残高……567,100
  乙銀行の残高……100,000
  ⇒合計 667,100

 さて、上記のようなずれが起きた場合に備えて、預金勘定を口座ごとに分離して管理しておくことが有用です。分離管理をする際に用いるのが補助科目です。補助科目は、いわば勘定科目を細分類したものととらえられます。

 預金勘定に、甲銀行と乙銀行の補助科目を設定してみましょう。該当する仕訳と、試算表は以下のとおりになります。( )内が補助科目です。

 (6)現金        20,000  預金(甲銀行) 20,000

 (8)預金(甲銀行) 200,000 給料収入 200,000

科目 金額 科目 金額
現金 20,880 純資産 97,480
銀行預金 667,100 給与収入 1,400,000
(甲銀行) (567,100)    
(乙銀行) (100,000)    
Suica 410    
生活費 809,090    

 最後にキーワードを振り返っておきましょう。

【キーワード】 総勘定元帳

 勘定科目ごとの残高の推移を仕訳ベースで記録したビュー。General Ledger(G/L)とも呼ばれる。仕訳データから作成する。


【キーワード】 補助科目

 勘定科目の内訳項目を細分類した内訳科目のこと。例えば、銀行預金という勘定科目では、銀行口座ごとに設定したり、売掛金は得意先ごとに設定したりする。


 会計システムの概要を、A君の家計簿を例に取りながら見てきました。会社の経理チームは、ほぼ毎日会計システムを起動して仕訳データを登録し、残高試算表や総勘定元帳を用いて、仕訳が正確かつ網羅的であるかチェックを行っています。 会計システムの概要を少しでもつかんでおくと、具体的な連携のイメージができてよいですね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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