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武富士の経営破たんから、貸倒引当金を理解するお茶でも飲みながら会計入門(40)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

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本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:貸倒引当金

 消費者金融大手の武富士は28日、東京地裁に会社更生法の適用を申請したと発表した。<中略>東京商工リサーチの調べによると、負債総額は約4336億円。未請求の「過払い利息」の返還債務を含めると、負債はさらに膨らむ見通しだ(MSN産経ニュース2010年9月28日より抜粋)。

 ダンサーのCMで有名な武富士が経営破たんし、会社更生法を申請しました。消費者金融業界は現在、事業遂行が難しい局面に立たされています。その理由について、「貸倒引当金」(かしだおれひきあてきん)という会計上の考え方を通じて解説します。

【1】 「貸倒引当金」の前に、そもそも引当金とは?

 まず、貸倒引当金よりも広い意味の「引当金」全般について解説します。新聞の記事でも「賞与引当金」「退職給付引当金」などの言葉がよく出てくるかと思います。引当金がどういうものなのか、1つ身近な例で見ていきます。

 Aさんは、いま住んでいるアパートが手狭になってきたので、マンションに引っ越すことにしました。引っ越し業者に頼むと、10万円かかってしまいます。10万円の出費は手痛いので、Aさんは会社の後輩5人に「今度夕食をおごるから」と約束して手伝ってもらうことにしました。引っ越しが終わった時点で、Aさんは引っ越し業者に頼んだらかかったであろう「10万円の出費」は回避できました。

 この話において、Aさんは10万円まるまる得をしたわけではありません。この後で5人に夕食をごちそうすることになるからです。

 「過去に起きたことによって将来起こりそうなマイナス」に備えて計上するのが「引当金」です。具体的には、後輩にごちそうする夕食代を見積もり費用(1人5000円とし、5人で2万5000円とします)として計上します。

【キーワード】引当金

過去に起きたことによって将来起こりそうなマイナスに備えて計上する費用。会計上は、実際にマイナスのことが起こったときに費用とするのではなく、過去の何かが起きたタイミングで概算計算し、費用として決算書に盛り込む。


【2】 リスクを予想して計上する「貸倒引当金」

 貸倒引当金にとって、「過去に起きたこと」とはある相手に「貸し」があること、「将来起こりそうなマイナス」とは「貸し」が返ってこないことです。貸倒引当金は、「貸し」が返ってこないことを想定して、貸した時点で貸借対照表に計上する金額です。

 先ほどの例で、引き続き解説します。BさんとCさんは、その後Aさんに「お金を貸してほしい」と頼んできました。Aさんは、それぞれに5万円ずつ貸してあげることにしました。ところが、会社の同僚にその話をしたところ、Cさんはどうも借りたお金を返さない人として有名だったらしいのです。Aさん以外の人からもお金を借りているから注意した方がいいということでした。

 この話において、「過去に起きたこと」とはお金を貸したこと、「将来起こりそうなマイナス」は、借金を踏み倒されてしまうことです。Bさんは返してくれそうです。しかし、Cさんの場合、同僚の話の信ぴょう性が高ければ、借金を返してくれないかもしれません。そのため、Cさんに貸した5万円については貸倒引当金を計上し、費用として認識することになります。

【3】 武富士が行っていたビジネス

 貸倒引当金は、武富士のビジネスを理解するに当たって重要です。以下に、経営状況が厳しくなる前の武富士の決算書と、同規模の貸出額がある銀行 東京都民銀行の決算書の抜粋を記載します。

  武富士 東京都民銀行
営業貸付金(貸出金) 1兆5600億円 1兆5700億円
貸倒引当金 △1300億円 △400億円
営業貸付金利息収益
(貸出金利息収益)
3400億円 300億円

 武富士の方が貸付金利息収益が多いですが、貸倒引当金が多く計上されています。

 東京都民銀行が貸し出す融資先は、Bさんのような返してくれる見込みの高い顧客、すなわち担保となる不動産があるところや、信用力が高いところです。将来貸し倒れる可能性が低いために貸倒引当金は少なくなり、費用はそれほど増えません。

 武富士は、無担保で信用力が少ないところにも融資をします。金利は高いですが、貸倒引当金も多く計上されるため、それだけ費用が増えます。貸倒損失(かしだおれそんしつ)は武富士がかぶる分、金利を高く設定することによって、武富士はビジネスとして成立していたのです。

 ところが2006年、「高すぎる金利について法令違反がある」と最高裁が判決を下しました。金利を下げるだけでなく、これまでに受け取った金利についても、法外に高い部分については返還義務がある、ということになりました。金利をこれまでより低く設定しなければならないだけでもビジネスモデルに大きな衝撃を与えているのに、高すぎる金利部分の利息返還義務にも応えなければならないというダブルパンチにより、消費者金融業界は非常に苦しい環境に置かれました。そして今回、武富士は破たんに至ったのです。

 貸倒引当金は、大半の企業の決算書で登場します。貸し付けがない会社でも貸倒引当金は登場します。通常の販売代金の場合、わたしたちがコンビニでおにぎりを買うときのように即金で払ってくれる得意先は少なく、1カ月ほど「ツケ」にしておくことがほとんどです(「ツケ」の金額は、「売掛金」という資産で表現します)。

 売掛金でも現金回収できる見込みが低く、将来返ってこないマイナスが起こりそうな場合には、貸倒引当金を計上します。そのため、メーカーや商社などで、貸倒引当金は頻繁に決算書へ登場します。

 ちなみに、将来起こるであろうことを見積もって費用計上しているため、実際に起こる損失額とは異なる場合が多々あります。先ほどの例でいうと、さすがに良心の呵責(かしゃく)を覚えたCさんが、1万円だけ返してくれることになるかもしれません。その場合、費用として盛り込むのは1万円少ない4万円でよかったことになります。

 実際の損失額については、事実がはっきりした時点で見積もりと実際額との差額を決算書に反映させていけばよいのです。誰しも、将来のことを寸分違わず見通すことはできないわけですから、その時点で最善の見積もりがされていれば問題ありません。

 簿記試験においても、各種引当金はよく登場します。どのような引当金であっても「過去のどの事象をトリガーとして、将来のマイナスをどう計算するのが最善か」ということに注目すると、計算式の意味がスムーズに理解できてよいかもしれませんね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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