IT企業はエンジニアの人月単価をどうやって決めているか?:お茶でも飲みながら会計入門(51)
意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
今回のテーマ:人月単価の計算方法
IT企業の場合、原価の大半は「人件費」です。そのため、ある案件について顧客に見積書を提出する時は、どの作業にどれだけの時間がかかるか工数を概算した上で、社内で定める一定の単価を掛けて「原価の見積もり」を立てます。
人月計算についてはいろいろな問題が指摘されていますが、そもそもこの“単価”は一体どのように決まるのでしょうか?
エンジニアとして働く上で、気になるところですよね。今回は人月単価の決め方を解説します。
【1】 人月計算において、考慮すべき要素
まず、人月単価を設定する時に、どのようなコストが含められているのかを見てみましょう。
- 人件費
最初に思いつくのは人件費でしょう。人件費として代表的なものは、給与や賞与、社会保険料(会社負担分)などです。この際、直接プロジェクトに携わっていない営業や管理職、総務部門など、間接部門の人件費も考慮します。
- 経費
次に挙げられるのが経費です。システム会社で大きな経費といえば、開発環境の減価償却費や事務所家賃などでしょう。これらにもお金が掛かっているので、考慮すべき要素となります。
- その他
他にも、会計上の費用として考えられるものとしては、借入金利息や得意先の倒産による貸倒損失などが考えられます。しかし、借入利率や得意先の倒産は、各プロジェクトチームで管理できるコストではありません。そのため、これらは各プロジェクトの採算性を検討する上では通常、織り込まれません。また、外部から購入するハードウェア、ソフトウェアは工数の枠外で原価として集計します。
【2】 いろいろな人月計算のパターン
それでは、人月計算について3つのパターンを見ていきましょう。
(1)一律の単価が1つ決まっている
一番単純なパターンは、単価が一律で決まっていて、特に期ごとに改定しないものです。この場合、単価には全社員の平均給与・賞与や経費負担分を加味します。計算方法はシンプルです。「開発工数×人月単価」で、見積原価を算定します。
- メリット:単純明快、誰にでも分かる
- デメリット:ベテランの開発者をアサインしても、新人をアサインしても、見積原価が変わらない
(2)役職ごとの人月単価を設定する
上記の方法で計算すると、どんなにプロフェッショナルのエンジニアでも新卒エンジニアでも人月単価が同じため、エンジニアにとっては不満でしょう。
そのため、役職ごとの人月単価を設定する方法があります。この場合、役職などの平均給与・賞与や経費負担分を加味して設定します。
(3)期ごとに人月単価を改定する
さて、間接部門の人件費や経費の負担額は、プロジェクトの操業度に大きく左右されます。これらはどの月でも値段が変わらない固定費のため、忙しい時にはたくさんの人月で分担して負担しますが、忙しくない時には、少ない人月で負担することになります。
そのため、操業度を考慮して、期ごとに人月単価を改定する会社もあります。ただし、全体の操業度はプロジェクト管理者には管理不能のため、納得できない部分もあるかもしれません。
【3】 どの方法で計算されているの?
これら3つの方法のうち、よく見掛けるのは(2)役職ごとの人月単価設定です。見積もりの負担が少なく、プロジェクト管理者にとっても分かりやすいのが、その理由かと思います。
実際には、IT企業では見積もりどおりにプロジェクトが進行することは少なく、綿密な人月設定でも、ざっくりとした人月設定でも、採算性を予測するのは非常に難しいと思います。そのため、いっそのこと単一の単価設定でもいいのではないかとも思えますね。それではまた。
筆者紹介
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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