SIerが出した見積書を、ユーザー企業はどう判断するのか:お茶でも飲みながら会計入門(52)
意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
今回のテーマ:人月単価の計算方法
前回「SIerが出した見積書を、ユーザー企業はどう判断するのか」では、人月単価の計算方法を紹介しました。
さて、原価を算出した後は、見積もりの作成です。ユーザーは見積書をどのように検討し、発注しているのでしょうか。今回はユーザーの視点から見る見積書について解説します。
【1】 見積書をもらったら、いざ社内決裁
相当規模のシステムを導入する場合、システム担当者の一存で導入について決定することはできません。ユーザー企業は、SI企業から見積書をもらった後、社内での意思決定を行います。情報システム部の会議などでシステム導入の経緯やメリットを提案し、決定権限を持つ人々の承認を得るのが一般的な流れです。キーパーソンは見積書をどう見て、どう承認をするのかを見てみましょう。
【2】 メリットやコスト感は大事です
SI企業内では、工数の見積もりは非常に重要な要素です。しかし、ユーザー企業の社内決裁に当たっては、「ベンダ側がこのシステムを開発するのに、これだけの工数がかかる」といった観点は重視されません。大切なのは、何よりも「導入によりどういったメリットがあるか」です。
システムの導入理由はさまざま考えられますが、大きく分類すると、
- ナレッジマネジメントなどの業務の効率化
- セキュリティ強化などの法令順守目的
が考えられます。それぞれのメリットを定量化することは難しいですが、業務の短縮時間やセキュリティ違反事例数などがあれば、議論は具体的になります。
もう1つ大きな要素は「コスト」です。自社利用システムであれば、見積金額を利用対象者で割ることによって、1人当たりのコストが算出できます。1人当たりのコストとして算出することにより、見積もり金額の妥当性を感じやすくなります。システムの導入によって、低減できるコストもあります。例えば、携帯電話の使用料金は郵便が利用されなくなり、メールで代替されるようになりました。このシステム導入によって、切手代が低減されわけです。こういった減少効果も、決定権を持つ人への説得材料となります。
【3】 相見積もりについて
大きな商談では、相見積もりを取ることがあります。見積額を比較検討する場合、金額は当然、重要な考慮要素です。それ以外には、類似システムの導入実績、ベンダの営業担当から感じ取れる社風、ブランド力なども考慮要素として重視されます。
システムは建物や車などと違って、無形資産であり、他社に売るものではありません。導入に失敗して誰も使わないようなシステムだったり、使っても効率が悪いシステムだったりした場合は、投資は失敗ということになります。設計から導入、保守までを含めると、長い付き合いとなるわけですから、多少高くても、システム導入を成功に導いてくれる信頼できるベンダに注文する傾向が強くなります。
ユーザー側は見積書を見てどう判断するかについて解説しました。開発するのにどのくらいの人月がかかるのかは、見積もりの金額の妥当性を説明するために有用ですが、支払対価以上のメリットが得られるのかどうか、企業の信頼性といったところが、ユーザーの大きな感心事になるわけです。それではまた。
筆者紹介
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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