オリンパスによる損失隠しの「飛ばしスキーム」:お茶でも飲みながら会計入門(63)
意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
今回のテーマ:オリンパスの「損失飛ばし」
オリンパスの損失隠しの実態を調べていた第三者委員会(甲斐中辰夫委員長)は6日、調査報告書を発表した。社長以下トップが主導し1999年3月期(98年度)から損失を簿外に移す「飛ばし」を実行、企業買収などを通じ総額1348億円を穴埋めした。(2011年12月6日 日本経済新聞電子版より抜粋)
オリンパスによる、過去の損失計上を先送りにするという不適切な会計処理が発覚しました。2011年12月6日、第三者委員会が事実関係について調査報告書を公表しています。
オリンパスは会計監査でも見つからないように巧妙な手法を用いて、損失を長年にわたって隠し続けてきました。今回は損失を隠してきたスキームについて、解説してます。
【1】含み損とは
オリンパスが隠し続けてきた損失は「含み損」と呼ばれるものです。まずは、含み損がどのようなものか、解説します。
100円で購入した株式が、時価が下落して70円になったとします。売却前なので確定はしていないものの、売却すれば損となる金額=30円を「含み損」と呼びます(詳細は、第56回〜東京電力が保有するKDDI株から、「有価証券」を学ぶ参照)。
オリンパスがバブル期に行った投資は、必ずしも株式ではなかったかもしれません。むしろ、類似する複雑な金融商品だったのでしょう。バブル崩壊によって、資産価値が暴落し、それらの金融商品の運用損が膨らんでいきます。その損を取り返そうと、成功時の利益が大きい代わりに失敗時の損失が大きい投資に手を出してしまい、含み損がさらに大きくなっていきました。
こうして発生した巨額の含み損は、今の会計基準ではすぐに損失として認識することとされています。しかし、オリンパスの損失が膨れ上がり始めた1990年代は違いました。含み損を抱える企業が急増する中、「含み損をすぐに損失として認識すべき」との議論が高まり、会計基準が改正されたのは、その後のことです。
【2】 「飛ばし」スキーム
会計基準が改正・適用させられれば、オリンパスが投資で多大な損失を発生させてしまったことが露見してしまいます。それを恐れた当時の経営陣が、損失を認識しなくてすむような裏技を実行しました。
100円で買った株式の例で解説します。バブルが崩壊し、100円で買った株式の時価はたった5円になってしまいました。つまり、含み損は95円。ここで以下のような裏技を使います。
オリンパスは、銀行口座で秘密裡に100円の借入を行います。借り入れた100円のお金はオリンパス内では帳簿に記載せず、秘密組織(オリンパスが作った組織)に預けます(そのため、オリンパスの帳簿に100円の借入は登場しません)。
時価5円の株式を「買った値段」=100円で秘密組織に売ります。そうすれば、100円の株式資産が100円の預金になります。株式がなくなれば含み損もなくなることになるので、損失処理が回避できてしまいました。
この点について、さらに身近な例を用います。先日、私の知人からある相談を受けました。「10万円で買った株式があるが、時価が3万円になってしまった。妻には含み損があることは内緒にしている。妻には絶対儲かるといってあるから、今売ったら損になることがばれてはまずい。どうすればいいか……」というのです。
ここで、あえて彼に悪知恵を与えるとします。すなわち、「私にお金を10万円預けてほしい。その10万円で私が君の株を買う契約をすれば、その株の売買だけ見れば、損したことにならないじゃないか……」と教えてあげるのです。
こんなことをしても、友人のお金や株式が行ったり来たりするだけであり、本質的な含み損の解消にはなりません。そのため、こんなことはもちろん教えませんが、オリンパスが行っていた行為は上記の例に近いものです。
このように、含み損が出ている投資をいろいろな偽装を用いて、外部に売却したと見せ掛けて損失計上を免れる行為を「損失飛ばし」と呼びます。損失飛ばしは、今回のオリンパスが最初というわけではなく、過去から何度も用いられている損失隠し行為です。
【キーワード】 損失飛ばし
含み損のある投資について、あたかも外部に売却したように見せかけて、会計の損失計上を免れる行為。単に「飛ばし」とも呼ばれる。
今回のケースにおいては、投資に関する失敗の隠ぺいであり、調査報告によると、本業での架空売上や在庫の水増しといった行為は認められていません。つまり、営業活動では順調に利益を挙げており、そこには偽りがなかったということです。
誰しもうそをついた経験はあるでしょうが、うそをつき続けるのは非常に大変です。いったんうそをつくと、つじつまを合わせるために、いろいろなうそを重ねなければなりません。当たり前ですが、最初にうそをつかないことが大切ですね。それではまた。
筆者紹介
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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