社会保険料は、なぜこの額が天引きされるのか:お茶でも飲みながら会計入門(66)
意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
給与明細を見てみると、最も控除されているのが「社会保険料」です。社会保険料で給与の手取り額は減少しますが、なぜこの金額なのか知っていますか?
実際に社会保険料はどうやって決まるのか――今回のテーマは「社会保険料」です。
社会保険料について知りたい方は、以下の記事も参考になります
・知っておいて損はない! 給与明細の見方
・企業エンジニアとフリーエンジニアの社会保険料を比較する
【1】社会保険料の計算体系
さて、お手元にある給与明細を見てみましょう。控除額が多いのは「健康保険」と「厚生年金保険」です。そのため、今回はこの2つに焦点を当てましょう。
「健康保険」と「厚生年金保険」といった社会保険料(月額)は、以下の算式で求めます。
- 標準報酬月額×保険料率
保険料率については、会社によって多少の違いがありますし、毎年改正もありますが、ざっくりまとめるとこんな感じです。
- 健康保険:8〜10%
- 厚生年金保険:16〜18%
【2】 標準報酬月額は4〜6月までの収入で決まる
さて、社会保険料を決める「標準報酬月額」とは何でしょうか。
標準報酬月額は、4〜6月に支給される給与の平均額によって決まります。その標準報酬月額は、9月〜翌年8月まで適用されます。
残業代も計算に含まれるので、4〜6月にたくさん残業をした人は標準報酬月額が上がり、9月〜翌年8月までの社会保険料が多くなってしまいます。ちなみに、途中で昇給があった場合は再度、計算されます。賞与についても、同じ料率に基づいて計算され、賞与から控除されます。
算出された社会保険料が、すべて給与から天引きされるわけではありません。社会保険料は「労使折半」と呼ばれ、労働者と会社でそれぞれ大体半分ずつ負担すること、とされているのです。言い換えると、サラリーマンの社会保険料のうち、半分は会社が払ってくれています。
【キーワード】 労使折半
サラリーマンの社会保険料について、従業員が全額負担するのではなく、会社が半額負担してくれること。
【3】 典型的な3世帯でみてみよう
実際の社会保険料について、Aさん、Bさん、Cさん世帯に登場してもらい、給与手引きの概算を算定してみます。詳細は以下のとおりです。
Aさん | Bさん | Cさん | |
---|---|---|---|
家族構成 | 独身 | 妻(専業主婦)と子(1歳) | 妻(共働き) |
基本給 | 30万円 | 30万円 | 38万円 |
4〜6月の状況 | Bさんと同期だが、担当システムのサービスリリースが6月だったため、毎月4万円の残業手当があった | Aさんと同期。プロジェクトが3月に一段落したため、残業なし | Aさん、Bさんの上司であり、残業手当はなし。奥さんはパートタイマーであり、月15万円(年180万円)の収入あり |
<健康保険、厚生年金の概算>
健康保険料率:9%、厚生年金保険料率:17%とします。計算を簡単にするため、標準報酬月額は基本給と残業代だけで計算します。
Aさん
- 標準報酬月額:34万円
- 健康保険天引額:34万円×(9%÷2)=1万5300円
- 厚生年金保険天引額:34万円×(17%÷2)=2万8900円
Bさん
- 標準報酬月額:30万円
- 健康保険天引額:30万円×(9%÷2)=1万3500円
- 厚生年金保険天引額:30万円×(17%÷2)=2万5500円
Cさん
- 標準報酬月額:38万円
- 健康保険天引額:38万円×(9%÷2)=1万7100円
- 厚生年金保険天引額:38万円×(17%÷2)=3万2300円
(Cさんの奥さん)
- 標準報酬月額:15万円
- 健康保険天引額:15万円×(9%÷2)=6750円
- 厚生年金保険天引額:15万円×(17%÷2)=1万2750円
AさんとBさんの基本給は同じですが、4〜6月分の残業代があるため、標準報酬月額が上がり、保険料がBさんより高くなっています。
Bさん一家は、奥さんと子どもがいるため3人分の健康保険が適用されます。その分、保険を利用する(医者にかかる)機会は増えますが、健康保険料は増加しません。
Cさん一家は共働きです。共働きで、奥さんの年収が130万円を超える場合、それぞれが社会保険料を支払います。
今回は社会保険について見てきました。給与から天引きされているため、実際にどのくらい払っているかイメージがわきにくいかもしれません。自分が何にお金を支払っているのか、これを機会に給与明細を見直してみるのもいいでしょう。それではまた。
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筆者紹介
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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