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「純資産」=会社の価値を上げる、プランAとプランBお茶でも飲みながら会計入門(70)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

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本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:純資産

  貸借対照表は、左側の「資産の部」と右側の「負債の部・純資産の部」で構成されています。

 資産・負債はこれまでの連載でも何度も登場しており、日常でもよく使う言葉ですが、純資産の方はイメージしにくいのではないでしょうか。そこで今回は、純資産の部の項目について解説します。

【1】純資産=会社の価値

  純資産の部は、一言でいえば「会社の価値」を示しています。

 借金をして資産を増やしても、会社の価値は上がりません(=純資産は増えません)。では、純資産はどうやったら増えるのでしょうか? 最初に押さえておく方法は以下の2つ。

  • プランA:株主から出資してもらう
  • プランB:プランAを元手に、利益を上げる

 株主から出資(プランA)してもらうと、純資産の「資本金」項目が増えます。さらにプランBによって、純資産のうちの「利益剰余金」項目が増えます。ただし、利益剰余金は直接、増えるわけではなく、損益計算書で当期純利益を計算し、その結果を受けて増えます。

  以上のことについて、競馬を例に見ていきましょう。

【2】当たり馬券予想システム

 エンジニアのAさんは競馬が大好きで、GIが開催される週は、奥さんから2万円もらって、競馬場に向かいます。

 勝つ可能性が高い馬券を計算してくれる独自開発システムを引っさげて、必勝を誓います。システムから導き出された馬券に賭けた結果、以下のようになりました。

第1レース:単勝3倍 3000円→当たり(9000円払戻し)

第2レース:馬連4倍 8000円→当たり(3万2000円払戻し)

 第2レースまでの状況について、損益計算書と貸借対照表を作成してみましょう。

 まず、最初に与えられた2万円があります。奥さんは株主ではありませんが、「奥さんから出資を受けた状態」といえます。そのため、上記プランAに該当し、資本金が増加します。仕訳は以下のとおり(仕訳については「会計界の洗練されたプログラミング言語――複式簿記」参照) 。

 現金 2万/資本金 2万

 その後、2つのレースに賭けていますが、これは奥さんからもらったお金を元手に利益を上げているので、上記プランBに該当し、利益剰余金が増加します。仕訳はこんな風になります。

【第1レース】

 費用 3000/現金 3000……馬券を購入した3000円を費用とする。
 現金 9000/売上 9000……3倍で当たったため当選金9000円を売上とする。

【第2レース】

 費用 8000/現金  8000……馬券を購入した8000円を、費用とする。
 現金 32000/売上 32000……4倍で当たったため、当選金3万2000円を売上とする。

 売上と費用が、損益計算書における計算対象となります。具体的に損益計算書を作成すると以下のようになります。

●損益計算書(第2レース終了時点)

項目 金額 備考
売上  4万1000 =9000+3万2000
費用 −1万1000 =3000+8000
当期純利益 3万  

 当期純利益の分だけ、貸借対照表の利益剰余金が増加します。利益剰余金は最初はゼロのため、0+3万=3万円となります。結果、貸借対照表は以下のとおりです。

●貸借対照表(第2レース終了時点)

項目 金額 項目 金額
資産 純資産    
現金 5万 資本金 2万
    利益剰余金 3万

 もう一度、確認しておきましょう。

  • 資本金=最初に奥さんからもらったお金
  • 利益剰余金=与えられたお金を使って得た利益

【3】 ここで全額投資!

 第3レースが、最終レースです。ここまで、すべて当たっており今日のあたり馬券予想システムは絶好調です。そこで最終レースには、全財産をつぎ込みました。結果は以下のようになりました。

第3レース:馬連12倍 5万円→はずれ

 残念ながらはずれ。今日のもうけはすべて吹き飛びました。

 この場合、最初から最後までの損益計算書と貸借対照表は以下のようになります。

【第3レースの仕訳】
 費用 5万/現金 5万……馬券を購入した5万円を費用とする

●損益計算書(最初から最終レースまで)

項目 金額 備考
売上  4万1000 =9000+3万2000
費用 −6万1000 =3000+8000+5万
当期純利益 −2万  

●貸借対照表(第3レース終了時点)

項目 金額 項目 金額
資産   純資産  
現金 0 資本金 2万
    利益剰余金 −2万

 最終純資産は、2万−2万=0円となってしまいました……。

【4】 まとめ

 今回は、純資産について見てきました。最後に、純資産の中でも重要な資本金と利益剰余金について、キーワードで振り返っておきましょう。

【キーワード】 資本金

 株主から引き受けたお金。今回の例では、最初に奥さんからもらった2万円。なお、途中で株主から追加出資を受けることもでき、その場合は途中で資本金が増加することとなる。


【キーワード】 利益剰余金

  株主から引き受けたお金を利用して得られた、利益や損失の合計。損益計算書で計算された当期純利益によって増減することとなる。


 大きな初期投資が必要となる会社の資本金は大きく、先行投資不要の会社の資本金は小さい傾向があります。そのため、上場していないシステム会社の場合には、資本金はそれほど大きくないことが予想されます。ご自身の会社の資本金も見てみるといいかもしれませんね。それではまた。

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筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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