ITエンジニアになぜ会計は必要なのか:お茶でも飲みながら会計入門・番外編(12)(2/2 ページ)
ITエンジニアに“意外と知らない”会計知識をお伝えする連載、「お茶でも飲みながら会計入門」の筆者インタビュー。そもそもこの連載は何のためにあるのか?
会計知識を4つに分類
「ITエンジニアに会計知識は必要」と説いたところで、会計の何を学べばいいかという疑問が残る。強いていえば、決算書はどこまで読めればいいのか。
その点について吉田さんは「必要な知識は、決算書を見る立場によって変わってくる」と説明する。吉田さんによると、市場に出ている会計関連の本は、大きく4つに分類できるのだという。会計の本を目的別に分類することで、ITエンジニアに何が必要かを見ていく。
(1)投資
投資に必要な会計知識が書かれている本。企業の過去の決算情報から、将来どれくらいもうかるかを読むための本。PER、ROAといった専門用語が並ぶ。
(2)経理
経理に必要な会計知識が書かれている本。法人税に関する知識、決算をするために必要な専門知識が書かれている。
(3)営業/ビジネス全般
営業やビジネス全般で必要な会計知識が書かれている本。決算情報から取引先の業務内容や経営環境を見る。企業の本業の調子、利益と資金繰りのバランス、為替の知識などが書かれている。
(4)システム開発
システム開発の観点で必要な知識が書かれている本。反復継続的な取引をシステム化する際、必要になる会計知識。販売購買・仕入れ・固定資産(サーバ、建物、PC、備品、車など)、人件費に関する会計の仕組み。反復継続的な取引ではあるが、企業ごとに特徴が色濃く出る。
ITエンジニアが身に付けるべき会計知識は、“営業/ビジネス全般”と“システム開発”
上記4つの中で、ITエンジニアに特に必要なのは(3)の営業/ビジネス全般と(4)のシステム開発であるという。その根拠を(1)から順番に説明しよう。
(1)投資
趣味の世界。一般的なITエンジニアの業務では必要ない。
(2)経理
会計士に近い会計知識であるため、決算書を作る人や経理業務に携わる人に必要な知識。ただし、会計ソフトを作るなら必要。例えば、減損会計のオプション機能を作る場合。「減損会計は会計士でも悩むほど専門的。だが、オービックにいたころ、会計ソフトの開発部門の人は非常によく知っていました。グルーピング、使用価値、回収可能価額などの専門用語も習得していましたね」(吉田さん)
(3)営業/ビジネス全般
ビジネスパーソン全般に必要。転職する人、フリーエンジニア、エンジニアを派遣する立場にある人は知っておいて損はない。
(4)システム開発
反復継続的な取引のシステム開発に必要な知識。(2)が会計士に近い専門知識に対し、こちらは顧客の業務により近い専門知識。業務寄りの会計知識ともいい換えられる。売買に直結する基幹業務のシステムを扱うエンジニアは知っておいた方がいい。
(4)は、お茶でも飲みながら会計入門でも取り扱うことが多いネタだ。吉田さんが述べていた“業務寄りの会計知識”とは具体的にどういうことか、かみ砕いて説明してもらった。
「クライアントからもらったお金を処理する勘定科目には、前受金と売上金の2通りあるんです。前受金とは先払いのことで、お金をもらっているがまだそれに値する仕事をしてないこと。利益に直結する売上金と異なり、前受金は負債項目に該当するため損益に影響しません。システムを作るときは、前受金と売上金を間違えないようにしなければなりません」(吉田さん)
例えば、あなたの会社がサーバの保守を行っているとする。クライアントとは、月1回サーバのメンテナンスをする約束で、1年間の契約をした。このとき、メンテナンス12回分の料金を契約時に一括でもらったとしても、毎月のメンテナンスを行うまでは、その金額を月の売り上げに計上することはできない。これが前受金。
「でも前受金と売上金を区別することって、フィールドSEは当たり前にできていることなんです。業務をこなしている彼らは当然分かっていると思います。ただ、会計知識としての裏付けを持っているかは別の話。業務上の経験で知っていても、それがなぜかは知らない人は多いと思います」(吉田さん)
会計知識は業務理解を手助けするいい材料になる。反復継続的な取引のシステム開発において、業務知識に差し当たったとき、会計の知識があればすっと飲み込める。これは囲碁でいう定石に近い感覚かもしれない。知識や理論を学んだうえで実践をした方が学習速度は速まる。
お茶でも飲みながら会計入門では、(3)営業ビジネス全般と(4)システム開発に的を絞ってお伝えしていく。(3)が主軸となるかもしれない(そういう意味では、第10回「税法と企業会計のずれから生まれる繰延税金資産」は(2)の経理に近かった)。
吉田さんから会計の勉強法アドバイス
会計の知識ゼロでお茶でも飲みながら会計入門を読んではみたものの、「難しい」と感じた人は意外と多いのではないだろうか。会計入門者に向け、吉田さんは2冊の本をお薦めしている。
- 『会社法対応 会計のことが面白いほどわかる本 <会計基準の理解編>』(天野敦之著、中経出版 )
- 『これだけは知っておきたい「会計」の基本と常識――社会人として最低限知っておきたい「会社のしくみ」がわかる』(乾隆一著、フォレスト出版)
上記2冊の本には、仕訳の切り方や会社の仕組みといった“基本のキ”が書いてある。
経済紙を読むことも勉強にはなるのだが、新聞はいろいろな知識をのべつ幕なしに記載しているため、ゼロから勉強する人にはまず本をお薦めする。吉田さんは「新聞に載っていることは、“お茶会計”でかみ砕いて解説していきます!」と意気込みを語る。この記事を通して、もし会計を学んでみようと思った人がいたとするなら、今後、お茶でも飲みながら会計入門にお付き合いいただければ幸いである。
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