損益計算書に登場する5つの利益:お茶でも飲みながら会計入門(15)
意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど。すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
今回のテーマ:利益
今回は損益計算書に登場する5つの利益の意味について、システム開発会社の発生損益を例に解説します。以下は、野村総合研究所が発表した決算概要の抜粋です。
- 売上総利益は、1004億円と前期比3.2%減少した。大型システム開発案件の影響による外部委託費の増加や横浜第二データセンターの償却費の増加があり、売上総利益率は30.3%から29.4%へと0.9ポイント悪化した。
<<中略>>
- 経常利益は、受取利息や受取配当金が減少したこともあり、517億円と前期比6.8%減少した。
- 当期純利益は、ソフトウェアの評価損や保有株式の時価下落による特別損失の影響があり、245億円と前期比12.9%減少した
企業は利益を計算するために損益計算書を作成しますが、損益計算書を見ると利益と名の付くものがいくつかあります。上記の経常利益もそのうちの1つです。経常利益とはどういった成果を表すのでしょうか。
【1】それぞれの利益が持つ意味
まずは、5つの利益すべての意味を見てしまいましょう。損益計算書を見ると以下の順番で利益が並んでいるのが分かると思います。
- 売上総利益
- 営業利益
- 経常利益
- 税引前当期純利益
- 当期純利益
各利益は1つ前の利益から、損益を加減して算定する仕組みになっています。大ざっぱにいうと、上に行くほど、本業だけの成果に近づき、下に行くほど本業とは無関係なものや臨時なものも含めた成果になります。以下、項目別にイメージを持ちやすいように簡単に説明していきます。
(1)売上総利益
売上総利益は、売上高から売上原価を引いて計算します。売上高は、顧客に提供したシステムの対価です。売上原価とは、直感的にいうと顧客に提供したシステムにかかったコストすべてです。外部から購入したサーバやルータ、ソフトウェアはもちろんのこと、顧客向けカスタマイズに要した労務費・外注費や、社内検証環境の減価償却費も売上原価に含まれます。なお、未売り上げのシステムについては、仕掛品として資産計上され、翌期以降に売り上げた時点で売上原価となるため、今期の利益計算には含まれません。
(2)営業利益
売上総利益から販売費および一般管理費を差し引いたものを営業利益といいます。
通常、営業活動を行うに当たって、企業はシステム開発以外にもさまざまなコストをかけています。営業販路の新規開拓のために、展示会に参加したり、新聞広告を打ったりします。また、開発のために人が動けば給与を計算し、支払わなければなりませんし、外注業者との業務委託契約を締結するために法務知識も必要になります。給与計算や法務も人が行うわけで、そこで発生する人件費も営業活動を営むに当たって必要となるものです。
展示会参加・新聞広告などの費用を販売費といい、給与計算や法務などのいわゆる間接部門に対する費用を一般管理費といいます。これらのコストを除いて営業利益が計算されます。
営業利益は、文字どおり営業活動で得られた利益であり、会社の本業の調子を示すものです。
(3)経常利益
営業利益から、営業外損益を加減したものを経常利益といいます。
営業外損益とは、本業以外の部分から毎期発生する損益です。例えば、支払利息は借入金から発生した財務活動による費用であり、システム開発という本業・営業活動から生じたコストではないので、営業外費用です。ほかにも受取利息、受取配当金、為替差損益、株式の売却益などが営業外損益項目となります。
経常利益は、本業だけではない毎期発生する収益・費用も加味した成果です。
(4)税引前当期純利益
経常利益から特別損益を加減したものを税引前当期純利益といいます。
特別損益とは、今期たまたま発生した臨時項目を指します。例えば、本社ビルが移転することに伴って引っ越し関連費用が発生した場合、今期だけしか発生しない費用ですので特別損失となります。ほかにも、保有上場株式の時価が買い値の半分以下になった場合の投資有価証券評価損や、固定資産を売却した場合の固定資産売却損益などが特別損益項目となります。
税引前当期純利益は、税金以外の当期の収益・費用をすべて加味した成果です。
(5)当期純利益
税引前当期純利益から当期の利益に伴って生じるであろう税金費用を見積もって控除したのが当期純利益です。
当期純利益は、投資主である株主が今期に得た利益を示します。株主に対する配当は、純利益累計(過去に会社があげた純利益も含む)から行われます。
これら5つの利益の中でも経常利益は、本業での成果と、毎期発生する投資活動・財務活動の成果の合計なので、企業の一期間の成果の尺度として頻繁に用いられます。逆にいうと、経常利益より下(「5つの利益」の表参照)で加減される特別損益や、(利益に応じて課税される)税金は企業の継続的な損得には、大きく影響しないと考えられているということです。
【キーワード】 経常利益
本業での成果と、支払利息や為替差損益をはじめとする毎期発生する投資活動・財務活動の成果の合計
【2】野村総研の決算概要
最後に、冒頭で挙げた野村総研の決算概要における損益の分析について見ておきましょう。
(1)売上総利益……大型システム開発の外部委託費やデータセンターの償却費は顧客に提供したシステムにかかった費用なので、売上原価となり売上総利益算出の際に差し引かれる項目となります。野村総研はこれらがかさんだことにより売上総利益が減少したと説明しています。
(2)経常利益……受取利息や配当金は、本業とは別に発生したものですから営業外収益になります。営業利益から加えられるこれらの項目が減少したことで、経常利益が減少します。
(3)当期純利益……ソフトウェアの評価損や株式の時価下落による評価損は臨時項目であり特別損失となります。そのため税引前当期純利益及び当期純利益に影響します。野村総研はこれらを主因として当期純利益が減少したと説明しています。
得意先や自社の損益計算書を見るときにも、特に経常利益を見るとよいでしょう。さらに本業だけでもうかっているかどうかも非常に重要なので、営業利益にも注目するのがいいですね。それではまた。
筆者紹介
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。
イラスト:Ayumi
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