2015年3月、「Microsoft Azure RemoteApp」にアップロード不要でカスタムテンプレートイメージの作成と更新ができる新機能が追加されました。もう、巨大なVHDファイルのアップロードで何時間も待たされることはありません。
2015年初め、2014年12月から正式サービスが開始された「Microsoft Azure RemoteApp」(以下、Azure RemoteApp)の試用リポートを掲載しました。Azure Remote Appは、「リモートデスクトッププロトコル(RDP)」を用いて、“Windowsデスクトップアプリケーション”をWindows、Windows RT、Mac、iOS、Android、Windows Phone 8.1(日本未発売)に配信するMicrosoft Azureのサービスです。
この記事で説明した通り、Azure RemoteAppで日本語環境や追加のアプリケーションを提供するには、「カスタムテンプレートイメージ」をアップロードして「RemoteAppコレクション」を作成する必要があります。
これまでは、Windows ServerのHyper-Vや64ビットWindows 8/8.1のクライアントHyper-Vの仮想マシン環境でOSやアプリケーションをインストールし、「Sysprep」(システム準備ツール)を実行してイメージを一般化した後、出来上がったVHD(Virtual Hard Disk)ファイルをAzure RemoteAppのテンプレートイメージとしてアップロードするという手順が必要でした(図1)。VHDファイルのアップロードには、ネットワーク帯域幅の制約やアップロードの中断などで、数時間から場合によっては1日以上要することもありました。
2015年3月、Azure RemoteAppのサービスが拡張され、Microsoft AzureのIaaS(Infrastructure as a Services)である「Microsoft Azure仮想マシン」(以下、Azure仮想マシン)の仮想マシンライブラリ(マイイメージ)からイメージをインポートできるようになりました(画面1)。
この機能は、Azure RemoteAppのユーザーからフィードバックされたアイデアを具現化したものです。
この新機能により、Microsoft Azureのクラウド環境だけで、Azure RemoteAppのカスタムテンプレート用のイメージを準備することができようになりました(図2)。
また、イメージ更新も、クラウド環境だけで完結できるようになりました。前回の記事で説明したアップロードによる方法も、引き続き利用可能です。今回は、新しく利用可能になった「インポート機能」の手順を詳しく紹介します。
Azure RemoteAppのテンプレートイメージのインポート機能を利用する場合、インポート元のイメージはAzure仮想マシン環境で作成することができます。Hyper-V環境で作成したイメージをAzure仮想マシンの仮想マシンライブラリに「マイイメージ」としてアップロードして、Azure仮想マシン環境でさらにカスタマイズすることも可能ですが、それではアップロードに時間がかかる点が変わりません。Azure仮想マシンのギャラリーに用意されているWindows Server 2012 R2のイメージからAzure仮想マシンを作成して、いろいろとカスタマイズする方が時間を大幅に節約できます。
インポート機能の提供に合わせ、Azure仮想マシンのギャラリーでは「Windows Server Remote Desktop Session Host」という新しいイメージが利用可能になりました(画面2)。このテンプレートイメージは、Windows Server 2012 R2 Datacenter(英語版)をベースに、最初からAzure RemoteAppの要件を満たす構成になっています(画面3)。
Azure RemoteAppの要件とは、Azure RemoteAppに必須の更新プログラムおよび「リモートデスクトップ(RD)セッションホスト」の役割と「デスクトップエクスペリエンス」の機能がインストールされており、「暗号化ファイルシステム(Encrypting File System:EFS)」も無効化済みの状態のことです。後は、アプリケーションをインストールし、Sysprepを実行して一般化すれば、Azure RemoteAppのテンプレートとして使用できるようになります。なお、このイメージにはマルウエア対策として「System Center 2012 R2 Endpoint Protection」がインストール済みとなっているため、追加のマルウエア対策の導入は不要です。
Azure仮想マシンを作成してリモートデスクトップ接続すると、「ValidateRemoteAppImage」というアイコンがデスクトップに置かれていることに気が付くでしょう。このアイコンをクリックすると、作成したイメージが“Azure RemoteAppの要件”を満たしているかどうかを確認することができます(画面4)。
Azure仮想マシンの作成直後は、すでに要件を満たした状態です。この後、システム設定の変更やアプリケーションをインストールして準備をしたら、Sysprepを実行する前にもう一度、「ValidateRemoteAppImage」アイコンをクリックして要件を満たしているかどうか確認するとよいでしょう。
Azure仮想マシンのギャラリーに「Windows Server Remote Desktop Session Host」から作成したAzure仮想マシンは、英語版のOS環境です。この英語版のOS環境に「日本語言語パック」を追加すれば日本語化され、日本語版のアプリケーションをインストールしてAzure RemoteAppで提供することができます。
英語版のOS環境を日本語化するには、「コントロールパネル」から追加の言語として「日本語」を選択し、自動的に検索される「日本語言語パック」をダウンロードしてインストールします(画面5)。
その後、現在のユーザーの表示および入力言語を「日本語」に切り替え、システムロケールを「日本語(日本)」に変更し、ユーザー(システムアカウントと新しいユーザーアカウント)の既定の言語を「日本語(日本)」に変更します(画面6)。システムロケールの変更と、システムアカウントの既定の言語の変更後は再起動が必要です。
Azure仮想マシンのOS環境の日本語化や、Azure RemoteAppで提供するアプリケーションのインストール、およびWindows Updateによる最新状態への更新が完了したら、コマンドプロンプトを開いて以下のコマンドラインを実行し、イメージを一般化してAzure仮想マシンを停止します(画面7)。
DEL C:\Windows\Panther\Unattend.xml
C:\Windows\System32\Sysprep\Sysprep /oobe /generalize /shutdown /mode:vm
Azure仮想マシンが停止したら、「取り込み」を実行して、Azure仮想マシンのイメージを仮想マシンライブラリに移動します(画面8、画面9)。
Azure仮想マシンの仮想マシンライブラリ(マイイメージ)に登録されたイメージは、Azure RemoteAppのテンプレートイメージにインポートすることが可能になります(画面10、画面11)。アップロード方法の場合は、アップロードが完了してイメージの準備が完了するまで数時間かかりますが、インポートの場合は数分(Azure仮想マシンとAzure RemoteAppのリージョンが同じ場合)から数十分(リージョンが異なる場合)で完了します。
この後の手順は、前回の記事でアップロード後に行った作業と変わりません。RemoteAppコレクションを作成し、アプリケーションの公開とユーザーアクセスの許可を行えば、RemoteAppクライアントにアプリケーションを提供する準備が整います(画面12)。
Azure RemoteAppコレクションをカスタムテンプレートから作成した場合、イメージのメンテナンス(Windows Updateやアプリケーションの追加、更新)は、イメージの更新により利用者側が行う必要があります。
Azure仮想マシンでイメージを準備した場合は、仮想マシンギャラリーの「マイイメージ」からAzure仮想マシンを展開することで、Azure仮想マシンの環境でメンテナンス作業を実施できます。メンテナンス作業が終わったら、Sysprepを実行してイメージを一般化し、新しいイメージとして仮想マシンライブラリに取り込みます。その後、Azure RemoteAppのテンプレートイメージとしてインポートし、RemoteAppコレクションの更新イメージとして指定します。
以上、本稿で解説したように、最新のAzure RemoteAppでは必要な全ての作業がクラウド環境だけで完結できるようになっています(画面13)。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Hyper-V(Oct 2008 - Sep 2015)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。マイクロソフト製品、テクノロジを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。
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