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JALの危険性が分かる貸借対照表の読み方お茶でも飲みながら会計入門(20)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど。すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

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本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:貸借対照表の資産と負債

 JALの惨状に銀行団は頭を抱えた。新たに資金調達しなければ6月にも資金ショートに陥る事態。<<中略>>渋る銀行、焦るJAL。業を煮やした国交省が次第に表立って動くようになった(『週刊ダイヤモンド』2009年7月25日号より抜粋)

 貸借対照表は、決算日時点の資産・負債・純資産の金額が掲載された、損益計算書などと並ぶ重要な決算書類です。貸借対照表は、企業の財政状態を示すといわれ、そこからは企業に「どのくらい体力があるのか」を知ることができます。今回は、JALの財政状態が本当に惨状なのかを検討しながら、貸借対照表の読み方について解説します。

【1】貸借対照表の上下左右

 まず、貸借対照表の全体像を説明します。貸借対照表には通常、左に資産、右に負債・純資産が配置されています。大ざっぱにいうと、右側の項目により資金を集めて、それを左側の項目で使用することで、企業は利益を得ます。また、上にいくほど、すぐにお金を返したり、受け取ったりすることとなる項目になっています。

 上記を念頭に置きながら、右上から大項目を順に見ていきます。

1.負債〜流動負債

 右側の負債は文字どおり、将来支払うべきものです 。そのうち、上部にある流動負債は、(例外はありますが)1年以内に支払うべき負債が登場します。

2.負債〜固定負債

 固定負債には、1年超先に支払うべき負債が登場します。

3.純資産〜株主資本

 純資産にはいくつか項目がありますが、重要なのは株主資本です。さらに、株主資本の中にもいくつか項目がありますが重要なのは以下の2つです。

(1)資本金・資本剰余金……株主からの出資額です。株主は会社のオーナーであり、利益はすべて株主のものとなります。その代わり、損をした場合には出資した金額は返ってきません。企業から見ると、資本金・資本剰余金は、株主から託されたお金であり、返済義務のあるものではありません。

(2)利益剰余金……過去の利益の積み上げで、ここから配当が行われるのでした(第18回「トヨタが赤字でも株主配当できた理由」参照)。

4.資産〜流動資産

 左側にある資産は、13で得たお金の使途を表します。そのうち、上の方にある流動資産には、現金、預金、1年以内にお金になる債権、商品、消耗品などが登場します。

5.資産〜固定資産

 固定資産は、建物や機械や自動車、ソフトウェアといった1年を超えて長期間使用するような資産が登場します。

 JALの場合、借り入れや出資などで得た資金により、飛行機を購入し、燃料を調達して人や荷物を輸送し、収益を得ます。その結果、貸借対照表には、決算日時点の借入金が1年を境として流動負債および固定負債に、出資が株主資本の資本金・資本剰余金に登場します。輸送することで得た現金や燃料は流動資産に、飛行機は固定資産に登場します。

【2】JALは危険なのか

 それでは、JALの貸借対照表を見てみましょう。

項目 金額 項目 金額
流動資産合計 4,459 流動負債合計 6,367
固定資産合計 12,498 固定負債合計 8,811
    資本金・資本剰余金 4,068
    利益剰余金 △1,272
平成21年 第1四半期(6月末発表)連結貸借対照表の要約
(JAL 四半期報告書より、単位:億円、△はマイナス)

 平成21年6月末の第1四半期 連結貸借対照表によると、流動負債は6367億円、固定負債は8811億円です。資本金・資本剰余金が4068億円で、利益剰余金が−1272億円です。

 利益剰余金がマイナスになっていますから、これまでの企業活動と配当の結果を通算すると損失となっており、トヨタ自動車のような蓄えはないということが分かります。

 流動資産は、4459億円、固定資産は1兆2498億円です。「流動負債>流動資産」となっていますが、これは「手元資金+1年以内に受け取るお金+燃料などの消耗品」よりも、1年以内に支払うお金の方が多いことを示します。個人に置き換えて考えると、「手元資金+年収」よりも借金の年返済額の方が多いような、危険な状態にあることが分かります。冒頭のように、新たな資金調達を行う必要性に迫られた理由が、お分かりいただけるかと思います。

【3】さらに情報を得るための期間比較

 貸借対照表は、1期間だけでなく、前期のものと比較して増減を見ることにより、さらに多くの情報を入手することができます。

 JALの連結貸借対照表を平成21年3月末と平成21年6月末で期間比較してみましょう。

項目 H21/3 H21/6 項目 H21/3 H21/6
流動資産合計 4,870 4,459 流動負債合計 6,498 6,367
固定資産合計 12,625 12,498 固定負債合計 9,040 8,811
      資本金・資本剰余金 4,068 4,068
      利益剰余金 △218 △1,272
      株主資本合計 3,840 2,786
平成21年3月末、平成21年6月末 連結貸借対照表の要約
(JAL 四半期報告書より 単位:億円、△はマイナス)

 最も大きく増減している項目は、利益剰余金で約1000億円減少しています。これは、配当と四半期3カ月の損失計上により減少したものです。これにより、株主資本合計が3840億から2786億と、約3割減少してしまっています。株主資本を主要項目とする純資産がマイナスになると負債の方が資産よりも大きい「債務超過」という危険な状態になります。 この減少が今後も続くとすると、すぐに債務超過となってしまうのは確実であり、JALほどの大企業であっても、存続が危うくなってくるといわざるを得ません。

【キーワード】 期間比較

貸借対照表を項目別に前期データと比較することにより、企業の財政状態の変化を知る手法


 IT業界では、システム導入作業が通常、高額な取引となるため、システム導入会社は得意先の財政状態を十分吟味し、注文を請けるかどうかを決定します。不況で倒産する企業が増えている昨今、得意先の検収が上がっても、営業不振により、売上債権が回収できないことも、これまで以上に起こるかもしれません。得意先の貸借対照表についても、利益剰余金や、流動資産と流動負債の大小関係、期間比較についてチェックしてみるのがよいかもしれませんね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。

イラスト:Ayumi



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