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エンジニアも知っておきたい! 営業の基礎知識お茶でも飲みながら会計入門(33)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

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本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:営業の基礎知識を知る

 経営にはものをつくるのと売るのと2つの面がある。わたしはものをこしらえるのは得意だが、売って金をとるのがからきしだめなんだ本田宗一郎『やりたいことをやれ』より抜粋)

 上記は本田技研工業の創業者 本田宗一郎氏のエピソードです。ITエンジニアの専門はものづくりなので、本田氏の言葉に「なるほど」とうなずく人も多いのではないでしょうか。

 日々システムの設計・開発をしているITエンジニアにとって、営業部門が日ごろどのような活動を行っているか、なかなか分からないと思います。わたし自身、ネットワークエンジニアのころは「与信」という言葉が分からず、上司と営業部門の会話が理解できなかった経験があります。

 しかし、ビジネスにおいては、ものをつくるだけでなく、売ることも非常に重要です。営業視点を得るため、営業マンとのコミュニケーションを円滑にするため――ITエンジニアが営業部門の仕事概要を把握しておいて、けっして損はありません。

 そこで今回は、「会計」を切り口にして営業部門の業務でよく使われる用語にスポットを当て、営業マンがどんな点を気にかけているかについて、解説します。

【1】 営業活動報告書を見てみよう

 まず、IT企業に勤める営業マンが作成する「1週間の営業活動を報告する資料」(営業週報)の一部を見てみましょう。

顧客先 システム名 確度 受注
(見込)額
粗利(粗利率) 完成予定年月 特記事項
A精機 人事システム 商談中 700万円 50万円
(7.1%)
次回人事担当役員にプレゼン予定
B製作所 給与システム 受注済 500万円 50万円
(10%)
2010年
8月
リース会社の与信通過。来週リース契約締結予定

 営業マンの使命は「注文を取ってくる」ことです。注文を受ける前後の大まかな流れを時系列で示すと、以下のようになります。

 商談開始
   
 見積もり提示
   
 注文受領 (受注)
   
 システム設計・開発・納品
   
 顧客検収
   
 代金回収

 営業部門には通常、受注するまでのプロセスを営業マンに報告させる仕組みが備わっています。リアルタイムでの営業情報を吸い上げる仕組みとして、日単位での報告(日報)もあります。

 上記の週報を見ると、「受注した企業」だけでなく「受注前の企業」も載っていることが分かります。営業マンは、受注に及ぶまでの状況(確度)を上司に報告します。

 受注した案件については、システムの完成予定月や粗利などを報告します。「粗利」は、売上総利益と同じ意味です。すなわち、「受注売上金額−売上原価」で算定します。売上原価の算定は通常、「対応する機器費用+見積内部工数+外注費」で計算します。

 粗利は売り上げとともに重要な数字であり、目標数値を設定する場合が多いです。また、粗利とともに「粗利率」と呼ばれる指標も報告資料には求められます。

 「粗利率=粗利÷受注売上金額」で算出します。粗利率がマイナスであれば、赤字案件になります。粗利率が極端に低い場合も、販売費や一般管理費を考慮すると赤字になる可能性があるため、改善を要する案件と見なされます。

【キーワード】 粗利

 粗利益とも呼ばれる。売上総利益と同義であり、「受注売上金額−売上原価」で算定する。営業部門では、売上総利益よりも粗利という言葉がよく用いられる。


 粗利は受注時の見積もりから算出するため、実績とずれが生じます。最終的な採算状況をチェックするため、営業マンはITエンジニアから「各案件にどれくらいの工数がかかったか」を入力してもらい、最終実績としての粗利を算定、見積もりとの乖離(かいり)状況をチェックします。

【2】 「受注したら終わり!」ではない

 受注とともに営業マンが注意すべきポイントとして、「回収業務」があります。うまく受注して、ITエンジニアが当初の予定どおりに納品を終えて顧客に満足してもらったとしても、顧客が倒産してしまうと仕事分の代金回収ができなくなってしまいます。そのようなことが起きないように、注文を受ける前に「与信」と呼ばれる業務を行います。

 与信とは、得意先の財務状況などから、どのくらいまで注文が受けられるかを判断することで、通常は営業部門とは別の部門が与信業務を行います。大企業相手であれば倒産リスクは非常に低いでしょうから、大きな問題にはなりません。

 中小企業に対しては、「与信枠」という枠設定があり、その枠を超える注文は受けることはできないようになっています。中小企業相手の納品であっても、リース会社から代金回収をすることがあります。その場合、企業内部では与信業務はありませんが、リース会社がリース料の受け取りについての与信を行うため、与信が通らない場合には、営業マンは別の方策を考えない限り受注できないことになります。

 さて、ここまで大まかな営業部門の業務を見てきました。営業スタイルは企業によってさまざまで、受注前の商品説明開始までのプロセスや、受注後の顧客満足が確保できるような活動を重視する企業も多くあります。自社の営業活動が分かると、営業部門の方とのコミュニケーションがスムーズになるかもしれませんね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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