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心の余裕・あせりを数値化する「経過勘定」お茶でも飲みながら会計入門(75)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

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本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


 今回は簿記3級の範囲である「経過勘定」を取り上げます。

 経過勘定とは、「収益・費用の見越し・繰り延べ」とも呼ばれ、現金の支払いや受け取りと利益計算のズレを調整するための方法です。日々行う処理とは異なり、決算時にどれだけ利益が出たのかを確定する際に行われる処理です。

 経過勘定で使う勘定科目は、以下の4つです。

  • 前払費用
  • 未払費用
  • 前受収益
  • 未収収益

【1】前払費用・未払費用=アリとキリギリス

 学生の夏休みもちょうど終わったところですね。というわけで、今回は小学生のアリタイプ小学生とキリギリスタイプ小学生に登場してもらい、「前払費用」と「未払費用」を解説します。

 2人には夏休みの宿題として「読書」が課せられました。アリさんは読書が好きだったので、初日に課題図書を読破しました。一方、キリギリスさんは、最終日までまったく本に手をつけず、8月31日になって徹夜で読み切りました。

 アリさんは本を読み切って、夏休み中は貯金ができたような心境でしょう。一方、キリギリスさんは、毎日ちょっとずつ借金ができたような心境になり、最終日の8月31日は最悪の気分だったようです(さて、読者の皆さんはどちらのタイプでしたか?)。

 経過勘定では、これらの心境を「数値化」します。

images

●心の余裕=前払費用心の余裕=前払費用

 アリさんは本を読む労力を先に使ったために、心の余裕=貯蓄ができました。この貯蓄を「前払費用」という資産で表現します。

●心の借金=未払費用心の借金=未払費用

 キリギリスさんは、本を読む労力を最後まで使わななかったので、心理的な借金を負いました。この残念な気分を「未払費用」という負債で表します。

【2】実際の簿記試験ではどう出るの?

 それでは、簿記試験で登場する問題を見てみましょう。

【問題1】

3月決算のA社は、借入金があり、3月末にこれから先1年分(4月?翌年3月)の利息(120万円)支払うことになっている。3月末の決算で経過勘定を認識する仕訳を示しなさい。


※仕訳については第22回目「会計界の洗練されたプログラミング言語??複式簿記」参照。

 A社は、3月末に1年分を先に支払うことになっています。先に嫌なことを済ませているあたりは、アリさんのようです。先に支払ってホッとした気持ちを「前払費用」という資産に表します。

  • 支払時(現金を減らし、その分費用〜支払利息を増やす)

  支払利息 120万円 / 預金 120万円

  • 決算時(支払利息を減らし、先払いした貯金分について前払費用という資産にする)

  前払費用(資産) 120万円 / 支払利息 120万円

【問題2】

3月決算のA社は、借入金があり、4月1日に前年4月?今年3月における1年分の利息120万円を支払うことになっている。3月末の決算で経過勘定を認識する仕訳を示しなさい。


 借入金の利息は、4月1日に過去1年分をまとめて支払うこととなっています。夏休みの宿題を最後までとっておいたキリギリスさんの心境になって、残念な気持ちを「未払費用」という負債で表します。

  • 決算時(支払いは3月末時点では行われていないが、利息の支払いを先送りにしてきた借金分について未払費用という負債で表す)

  支払利息 120万円 / 未払費用(負債) 120万円

【3】未収収益・前受収益=お小遣いの後払い・前借り

 さて次は、夏休みのお小遣いを例に挙げます。

 アリさんは、冬に発売されるゲーム機のために貯蓄しているので、冬になるまで使えるお小遣いがありません。一方、キリギリスさんは夏をめいっぱい楽しむため、冬の分のお小遣いまで、親から前借りして使ってしまいました。

 アリさんは、今はお小遣いが使えなくてつまらないですが、冬にたくさんもらえるのが楽しみです。一方、キリギリスさんは、今はお小遣いがたくさんありますが、それは前借りなので、冬は寂しい気持ちで過ごさなくてはならないでしょう。

 先ほどと同様、経過勘定ではこれらの心境を「数値化」します。

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●後でお小遣いがもらえる楽しみ=未収収益

 今はもらえないが冬にもらえるお小遣いの楽しみを、「未収収益」という資産として表現します。

●先の分までお小遣いを使ってしまった寂しさ=前受収益

 今もらってしまったので、そのまま冬まで過ごさなければならない寂しさを、「前受収益」という負債で表現します。

【4】実際の簿記試験で登場する問題

 同様に、簿記試験で登場する問題を見てみましょう。

【問題3】

3月決算のA社は、貸し家があり、4月1日に過去1年分(昨年4月〜今年3月)の家賃(120万円)を受け取ることになっている。3月末の決算で経過勘定を認識する仕訳を示しなさい。


 4月1日に1年分を受け取ることとなっています。4月まで、1年間の家賃が受け取れないあたりが、アリさんの心境ですね。これからもらえるうれしい気持ちを「未収収益」という資産に表します。

  • 決算時(家賃の受け取りは3月末時点では行われていないが、これまでに発生している家賃分を未収収益という負債で表す)

  未収収益(資産) 120万円 / 受取家賃 120万円

【問題4】

3月決算のA社は、貸し家があり、3月末に4月からの1年分の家賃(120万円)を先に受け取ることになっている。3月末の決算で経過勘定を認識する仕訳を示しなさい。


 3月末にこれから先の1年分を受け取ることとなっています。先に1年分の家賃を受け取ってしまって、もう収入がないキリギリスさんの心境です。その残念な気持ちを「前受収益」という負債を用いて表します。

  • 家賃受取時(現金を増やし、その分収益〜受取家賃を増やす)

  預金 120万円 / 受取家賃 120万円

  • 決算時(受取家賃を減らし、先にもらった分について前受収益という負債にする)

  受取家賃 120万円 / 前受収益(負債) 120万円


 なお経過勘定の話が出てくるのは、利息や家賃、保守収入など、時間の経過によって支払い・受け取りが発生するものに限られるので注意してください。

 今回は、経過勘定について見てきました。

 私が簿記を勉強し始めたとき、「経過勘定」についてややこしく感じたのを覚えています。夏休みの宿題が大量に残っていた気持ちを思い出しながら、仕訳ができるようになるといいでしょう。それではまた。

お知らせ

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吉田延史(仰星監査法人/公認会計士) 著
インプレスジャパン
2012/02/17
ISBN-10: 4844331485
ISBN-13: 978-4844331483
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筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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