本当は怖い? Windows 8/8.1のPC簡単修復[その1]その知識、ホントに正しい? Windowsにまつわる都市伝説(13)

Windows 8では、新しいシステム修復機能「PCのリフレッシュ」「PCのリセット」が提供されました。これらはトラブルを簡単かつ短時間に解決するための機能ですが、安易に実行すると回復までに余計に時間がかかるかもしれませんよ。

» 2014年08月27日 18時00分 公開
[山市良テクニカルライター]
「Windowsにまつわる都市伝説」のインデックス

連載目次

Windowsのシステム/データバックアップツールの変遷

 Windowsは、標準でバックアップツールを搭載しています。そのテクノロジやツールは、Windowsのバージョンアップとともに変化してきました。

 Windows NTからWindows XPおよびWindows Server 2003 R2までは「NTBackup」とも呼ばれた「バックアップユーティリティ」(Ntbackup.exe)が標準で提供され、ディスクまたはテープ装置にシステムやデータをバックアップすることができました(画面1)。

画面1 画面1 Windows XPやWindows Server 2003 R2以前の「バックアップユーティリティ」(Ntbackup.exe)

 Windows XP(Home Editionは除く)およびWindows Server 2003では「自動システム回復」(Automated System Recovery:ASR)という、新しいディザスタリカバリの仕組みも提供されました。

 Windows VistaおよびWindows Server 2008では、バックアップとリストアのテクノロジが一新されました。Windows VistaやWindows 7の「バックアップと復元」、Windows Server 2008以降の「Windows Serverバックアップ」です(画面2)。Windows 8にも「Windows 7のファイル回復」という名前で搭載されています。

画面2 画面2 Windows 7の「バックアップと復元」。Windows Server 2008以降の「Windows Serverバックアップ」も同じテクノロジがベースになっている

 Windows Vista/Windows Server 2008以降の新しいバックアップツールは「Windows Complete PCバックアップ」とも呼ばれ、システム全体およびボリューム全体のバックアップをマイクロソフトの仮想ハードディスク形式である「VHD」(その後、VHDX)形式で、ファイルやフォルダーごとのバックアップをZIP圧縮形式で、ディスク/共有フォルダー/CD/DVDメディアに格納します。

 また、ASRは廃止され、「ベアメタル回復」(Bare Metal Recovery:BMR)に置き換えられました。BMRはシステム回復環境でPCを起動し、ディスクを初期化して、バックアップイメージをディスク上に展開することで、ASRよりも短時間でシステムを復元します。なお、テープ装置へのバックアップはサポートされなくなりました。

 Windows Complete PCバックアップのテクノロジは、最新のWindows 8.1やWindows Server 2012 R2でも引き続き採用されています。ただし、クライアント版「バックアップと復元」のフル機能はWindows 8では「Windows 7のファイル回復」という名前で残りましたが、Windows 8.1では廃止されました。Windows 8.1には、スケジュールバックアップ機能は存在せず、Complete PCバックアップの一部である「システムイメージの作成」とコマンドライン版の「wbadmin.exe」だけが残されています。

 Windows 8およびWindows 8.1では、ユーザーデータのバックアップは「ファイルの履歴」(File History)に置き換えられ、システム修復用に「PCのリフレッシュ」(Refresh your PC)」と「PCのリセット」(Reset your PC)が提供されました(画面3画面4)。「PCのリセット」は、日本語版のUI(User Interface)では「すべてを削除してWindowsを再インストールする」や「PCを初期状態に戻す」と訳されています。

画面3 画面3 「PCのリフレッシュ」と「PCのリセット」は、Windows 8では「PC設定」→「全般」から、Windows 8.1では「PC設定」→「保守と管理」→「回復」から開始できる
画面4 画面4 PCが正常に起動しない場合は、システム回復環境で起動して「PCのリフレッシュ」または「PCのリセット」を開始できる。詳細オプションにある「システムの復元」や「イメージでシステムを回復」は、「PCのリフレッシュ」や「PCのリセット」とはまったく違う修復手段であることに注意

 今回は「PCのリフレッシュ」と「PCのリセット」について、掘り下げてみたいと思います。「ファイルの履歴」については説明しません。先に言っておくと、筆者は現実のトラブルを解決するために、これら“マイクロソフトお勧めの回復手段”を利用したことはありません。筆者は今でも“フルバックアップ派”です。

PCのリフレッシュとPCのリセット、仕組みを知れば違いが分かる!

 「PCのリフレッシュ」と「PCのリセット」は、事前に取得したバックアップデータからのシステム回復とは全く異なる方法でWindowsの修復を試みます。バックアップ管理が不要になるので、誰でも簡単かつ短時間でWindowsのトラブルを自己解決できるというわけです。しかし、本当にそうでしょうか。

 WindowsがプレインストールされたPCを利用しており、再インストールやアップグレードインストールを行わずに、同じバージョンをそのまま利用しているのであれば、これらの修復機能はトラブル解決に役立つでしょう。

 しかし、そうでない場合に「PCのリフレッシュ」と「PCのリセット」の仕組みや違いを知らないままで安易に実行してしまうと、インストールしたアプリケーションや設定、ローカルディスクに保存したデータが意図せず全て削除されてしまい、元の状態に戻すために余計に時間がかかることがあります。

 Windows 8.1の「PC設定」→「保守と管理」→「回復」では、次のように「PCのリフレッシュ」と「PCのリセット」が説明されています。

  • PCのリフレッシュ:お使いのPCの動作が不安定な場合は、Windowsをリフレッシュしてみてください。写真、音楽、ビデオなど個人的なファイルには影響はありません(リフレッシュを実行するとデスクトップアプリは削除されるため、再インストールが必要です)
  • PCのリセット(すべてを削除してWindowsを再インストールする):PCを工場出荷時の初期状態に戻します。PCをリサイクルするときや、最初の状態から完全にやり直すときに行います

 簡単に言うと、「PCのリフレッシュ」は、「Windows」フォルダーや「Program Files」フォルダーを“ハードディスクに保存されている回復イメージ”から書き戻し、そこにシステム設定やユーザーデータを復元することでWindowsの問題の修復を試みます。

 一方、「PCのリセット」は、以前のバージョンのプレインストールPCにおける「リカバリディスクからの回復」と同等と考えてください。

 ただし、どちらも場合も、ローカルハードディスク上に回復イメージを含む「回復パーティション」(Cドライブ上のフォルダーの場合もある)が存在することが大前提になります。

 「PCのリフレッシュ」と「PCのリセット」によるWindowsの修復の仕組みを、以下の図1図2に示してみました。細かい部分では正確ではないところもあるかもしれませんが、修復の仕組みのおおよそのイメージはつかめると思います。

図1 図1 「PCのリフレッシュ」でWindowsが修復される仕組み
図2 図2 「PCのリセット」でWindowsが修復される仕組み。ローカルディスクにOEMの回復パーティションが存在しない場合は、Windowsをインストールメディアから新規インストールするのと何ら変わらない

 現在利用中のWindows環境の何が保持され、何が失われる可能性があるのか、もっと詳しく知りたいという方は、以下のドキュメントを参照してください。

 「PCのリフレッシュ」は、ローカルディスクの回復パーティションに保存された「回復イメージ」を使用します。回復イメージは「Install.wim」または「Install.esd」(Install.wimの圧縮形式、Windows 8.1からサポート)というファイルです。

 もし、「カスタム回復イメージ」(CustomRefresh.wim)がある場合はそちらを使用しますが、ユーザー自身が作成しない限りは存在しないはずです。

 回復イメージ、カスタム回復イメージのどちらも利用できない場合は、Windowsインストールメディアの「Sources\Install.wim」、またはUSBメディアに作成した「回復ドライブ」の「Install.wim」「Install.esd」または「Install1.swm、Install2.swm、Install3.swm……」(Install.wimの分割形式)が使用されます(画面5画面6)。回復ドライブは、回復パーティションが存在するPCであれば、コントロールパネルから作成することができます。

画面5 画面5 ローカルディスクに回復イメージが保存されていない場合は、Windowsのインストールメディアまたは「回復ドライブ」が要求される
画面6 画面6 回復パーティションの「Install.wim」を「DISM」コマンドでマウントしたところ。「PCのリフレッシュ」では、ここから「Windows」フォルダーのシステムファイルや「Program Files」フォルダーにあるアプリケーションファイルを書き戻してから、システム設定やユーザーデータが復元される

 一方、「PCのリセット」は、回復パーティションに保存された回復イメージの使用を試み、存在しない場合はWindowsインストールメディアまたはUSBメディアの回復ドライブを使用します。カスタム回復イメージが使用されることはありません。

 WIM(Windows Image)ファイルはWindowsイメージング形式と呼ばれ、Windowsのインストールをイメージファイル化したものです。Windowsのインストールメディアの「Sources\Install.wim」には、一般化された汎用イメージが含まれます。

 つまり、回復パーティションが存在しないPCで「PCのリセット」を実行するということは、Windowsインストールメディアを使用して、Windowsを新規インストールするのと何ら変わりません。「PCのリフレッシュ」を実行した場合は、ユーザーがインストールしたデスクトップアプリケーションは全て失われることになります。

自分のPCに回復イメージが存在するかどうかを調べるには?

 「PCのリフレッシュ」で利用されるカスタム回復イメージが存在するかどうかは、次のコマンドラインを管理者として実行することで確認できます。

recimg /showcurrent


 「PCのリフレッシュ」および「PCのリセット」で利用される回復イメージ(通常、プレインストールPCの回復パーティションに保存されている)は、次のコマンドラインを管理者として実行することで確認できます。「PCのリフレッシュ」で利用されるカスタム回復イメージの場所もこのコマンドラインで確認できます。

ReAgentc /info


 これらがローカルディスク上に保存されていないのであれば、「PCのリフレッシュ」や「PCのリセット」は実行しない方が無難です(画面7)。他の方法、例えば「システムの復元」(System Restore)を先に試してみるべきでしょう。

画面7 画面7 ローカルドライブにカスタム回復イメージと回復イメージが存在するかどうかを確認する。「回復イメージの場所」が空欄になっている場合は、回復イメージがローカルに存在しないということ

アップグレードユーザーは回復イメージのWindowsバージョンに注意!

 前述したように、ローカルディスク(通常、回復パーティション)に適切な回復イメージが保存されているプレインストールPCの場合は、「PCのリフレッシュ」も「PCのリセット」も期待どおりに動作するはずです。

 しかし、Windows 8またはWindows 8.1を旧バージョンのWindowsからアップグレードした場合は、「PCのリフレッシュ」や「PCのリセット」の利用に関して、さらに注意するべき点があります。

 もし、回復パーティションが存在するとしたら、そこに保存されている回復イメージはどのバージョンのWindowsのものでしょうか。それが以前のバージョンのWindowsのものだとして、「PCのリフレッシュ」や「PCのリセット」を実行したらどうなるでしょうか。想像してみてください。詳しくは、次回に。

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筆者紹介

山市 良(やまいち りょう)

岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Hyper-V(Oct 2008 - Sep 2014)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。マイクロソフト製品、テクノロジを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手がける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。


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