迷走のスタート画面その知識、ホントに正しい? Windowsにまつわる都市伝説(12)

2014年7月、米マイクロソフトはWindows 8.1アプリの“企業向け”ポータル「Windows Apportal」を発表しました。まだ情報が少なく、謎の多い新機能です。個人ユーザーはもとより、企業ユーザーのほとんども、完成品を手にすることはなさそうです。

» 2014年08月20日 18時00分 公開
[山市良テクニカルライター]
「Windowsにまつわる都市伝説」のインデックス

連載目次

「Windows Apportal」はそれ自体がモダンアプリらしい

 2014年7月11日(米国時間)に突如発表された「Windows Apportal」(ウィンドウズ・アップポータル)。日本ではあまりニュースになっていませんが、Windows 8.1に提供予定の企業向けの新機能です。

 Windows Apportalのサイト(英語)をざっと確認したところ、Windows 8.1の標準のスタート画面から呼び出す「ミニ(サブ)スタート画面」のようなもののようです。Windows Apportalは、ユーザーの役割ごとに専用のものを作成でき、スタート画面と同じようにモダンアプリ(「Windowsストアアプリ」や「WinRTアプリ」とも呼ばれるもの)やデスクトップアプリ、リンクのタイルを配置してグループ化したり、ライブタイルを有効化したりできるとのこと。

 そもそもWindows 8で導入されたスタート画面は、アプリやデータへの容易なアクセスを提供するポータル(Portal)やハブ(Hub)の役割があります。Windows Apportalは企業向けのカスタマイズおよび中央制御可能な、もう一つのスタート画面と考えればよさそうです。スタート画面から呼び出す方法以外に、キオスクモード(詳細は後述)で最初からWindows Apportalの画面を開始することもできるようです(画面1)。

画面1 画面1 Windows Apportalのイメージ。スタート画面からミニスタート画面を開くか、キオスクモードを利用して最初からミニスタート画面を開く(「Wonderful World of Marketing:Episode #1 - Windows Apportal Overview」(YouTube)を基に作成)

 「Windows 8.1のPCやデバイスなら、いつでも、どこからでもアクセスできるOSレベルの相互運用性」「Corporate App Storeを通じて配布し自動更新できる」「役割ベースのビューを用意でき、Active Directoryで制御できる」というのがWindows Apportalの“ウリ”のようです。

 Windows 8から導入されたスタート画面に何かしらの不満のある方なら、Windows Apportalの機能を聞くと“スタート画面の階層化、待ってました”“使いやすそう”“早く試してみたい”と思うかもしれません。

 残念ながら、現時点ではおそらく完成品は存在していないでしょう。また、仮に完成品があったとしても、自分のPCにポンと追加できるような代物でもないようなのです。

 Windows Apportalのサイトからダウンロード可能なドキュメント「Building a Windows Apportal」(「Build it yourself」のリンクから入手可能、Microsoftアカウントとプロファイルの入力が必要)の説明を読むと分かりますが、Windows Apportalのミニスタート画面の実体は、開発・ビルドして作成するカスタムモダンアプリです。Windows Apportalはカスタムモダンアプリなので、Windowsストアから導入することはできず、エンタープライズサイドローディング展開で導入することになります。

 キオスクモードで起動できるのも、モダンアプリであることを示しています。キオスクモードは、Windows 8.1無印を除く、全てのエディション(Windows RTを含む)で利用できるWindows 8.1の標準機能で、ローカルユーザーに対して一つのモダンアプリを割り当て、サインインするとそのアプリが起動し、そのアプリの利用以外の操作を制限するモードになります。

 英語では「Assigned access」、日本語では「割り当てられたアクセス」という機能名で実装されているため、知名度は低いかもしれません。通常、キオスクモードでは許可されたアプリ以外は使用できません(画面2)。Windows Apportalをキオスクモードで利用する場合、Windows Apportalからさらに別のモダンアプリやデスクトップアプリを開始できるというのは、現時点では方法がないので、とても興味深いところです。

画面2 画面2 キオスクモードでローカルユーザーに地図アプリのみを許可しているところ。ここで許可するアプリとしてWindows Apportalを指定できるらしい

 Windows Apportalを導入するには、自社開発するか、マイクロソフトのパートナーやマイクロソフトコンサルティングサービスと一緒に作り上げる必要があるのです。そして、Windows Apportalはモダンアプリなので、自社で開発する場合には、ストアアプリの開発者用ライセンス(無料で取得可能)とVisual Studio開発環境が必要になります。

 “ポンと追加できるような代物でもない”というのは、そういうことです。もちろん、Windows Apportalを導入した企業のエンドユーザーなら、ある日突然、ポンっと新しいポータルに切り替わる体験があるかもしれません。

 Windows Apportalは発表されたばかりであり、現状は「Windows Apportal Prototype Generator」というものが提供されており(すでに利用可能になっているかどうかは不明)、タイルをタッチしても機能しない、概観だけのWindows Apportalのプロトタイプを作成できるようになるという段階のようです。

 YouTubeにアップされている「Wonderful World of Marketing: Episode #1 - Windows Apportal Overview」の紹介ビデオを見ても、Windows Apportalからアプリを開始するところまでは見せてくれません。

「Corporate App Store」ってどこにあるの?

 Windows Apportalの機能を理解する上で、前提となるWindows 8.1の企業向けテクノロジについて補足しておきましょう。

 Windows ApportalはCorporate App Storeから展開し、自動更新できるということですが、Corporate App Storeとはおそらく「会社のポータル」(Company Portal)のことだと思います。

 「会社のポータル」は、System Center Configuration ManagerまたはWindows Intuneが提供するアプリ配布のための“企業内アプリストア”のアプリであり、カスタムモダンアプリのエンタープライズサイドローディング展開が可能です。

 Windows Intuneの「会社のポータル」アプリは、Windowsストアから導入できます。System Center Configuration Managerの「会社のポータル」アプリは、アプリのパッケージを取得してクライアントPCに「エンタープライズサイドローディング展開」することで導入できます(画面3)。

画面3 画面3 System Center Configuration Managerの「会社のポータル」。バックエンドとしてConfiguration Managerサービスと通信する。Windows Intuneの「会社のポータル」はインターネット経由でWindows Intuneのサービスと通信する

 エンタープライズサイドローディング展開は、Windowsストアの認証を受けていないカスタムアプリを企業内でWindowsストアを経由せずに展開する方法です。

 エンタープライズサイドローディング展開には、各PCでWindows PowerShellの「Add-AppxPackage」コマンドレットを使用して個別に展開する方法と、前述の「会社のポータル」アプリを使用して、中央で管理する方法があります。ドメインに参加しているWindows 8 EnterpriseやWindows 8.1 Enterpriseは、追加コストなしでエンタープライズサイドローディング展開が可能です。

 そして、最近良いニュースがありました。Windows 8.1 Updateに更新すると、ドメインに参加しているWindows 8.1 Proでも追加コストなしで利用可能になったのです。以前はサイドローディイングキーの購入が必要だったので、業務アプリのモダンアプリ化を進めている企業にとってはWindows 8.1 Updateの重要な変更点でしょう。

でも、「スタート画面の制御」がすでにあるし!

 先ほども言いましたが、Windows 8以降のスタート画面は、アプリやデータへの容易なアクセスを提供するポータルという側面があります。Windows 8以降を導入した企業は、Windows Apportalのようなカスタマイズ機能および中央制御機能が正に求めていた機能なのかもしれません。

 実は、Windows 8.1からは「スタート画面の制御」(Start Screen Control)という新機能で、カスタマイズや中央管理ができるようになっています(画面4)。

画面4 画面4 「スタート画面の制御」を利用して構成した共通のスタート画面。制御の対象はアプリのピン留め、タイルの場所やサイズ、グループ化の状態。背景の色などはログオンユーザーの個人設定

 詳しい手順は以下のドキュメントに書いてありますが、カスタマイズしたスタート画面のレイアウトをWindows PowerShellの「Export-StartLayout」コマンドレットでXMLファイルにエクスポートし、それを共有フォルダーに配置して、グループポリシーでクライアントPCに展開できます(画面5)。

画面5 画面5 「スタート画面の制御」はグループポリシーで制御する。XMLファイルは、手動でカスタマイズしたスタート画面を「Export-StartLayout」コマンドレットで簡単にエクスポートできる

 レイアウトをエクスポートしたXMLファイルには、スタート画面のピン留め、タイルの場所やサイズ、タイルのグループ化状態の情報が保存されており、グループポリシーが適用されたユーザーのデスクトップにレイアウトを再現します。

 「スタート画面の制御」を利用すれば、ユーザーやコンピューターのグループやその他の属性を使って、役割ベースのスタート画面を中央から制御することができます。つまり、Windows Apportalで実現しようとしていることの多くはすでに実現できているのです。

 Windows Apportalに興味を持った企業のIT担当者の方は、ぜひ「スタート画面の制御」を試してみてください。ほとんどの場合、こちらの機能で十分な気がするからです。Windows Apportalでなければという優位点があるとすれば、キオスクモードからの開始が可能になることくらいかもしれません。

 “「スタート画面の制御」ってWindows 8.1 Enterprise限定の機能だからウチでは使えない”という企業の方へ、こちらも良いニュースがあります。

 「スタート画面の制御」の関する公式ドキュメントやパンフレットでは、Windows 8.1 Enterprise(およびWindows Server 2012 R2およびサイドローディングキーありのWindows 8.1 RT)に限定された機能として紹介されています。

 しかしながら、筆者が実機で確認してみたところ、Windows 8.1 Updateが適用されたWindows 8.1 Proでも利用可能でした。Windows 8.1 Updateが適用されていない場合は、公式ドキュメント通り、利用することはできません。現状、この変更に関する情報がどこにも見当たらないので、Windows 8.1 Updateにおける仕様変更(制限解除)なのか、設計上のミスなのかどうかは分かりません。しかし、使えるのであれば、どんどん活用しましょう。

2015年4月13日追記

 Windows 8.1 Update(KB2919355)のスタート画面の制御への影響については、以下のサポート技術情報で確認してください。これはWindows 8.1 Update(KB2919355)の不具合であり、2014年11月の更新ロールアップ(KB3000850)によって修正され、Windows 8.1 Proでは再び利用できなくなりました。


 最後に、Windows Apportalは発表されたばかりなので、今後どうなるかは分かりません。もしかしたら、企業に欠かせないスゴイ機能に化ける可能性はあります。あるいは日の目を見ることなく都市伝説に……、なんてことにならなければよいのですが。

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筆者紹介

山市 良(やまいち りょう)

岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Hyper-V(Oct 2008 - Sep 2014)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。マイクロソフト製品、テクノロジを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手がける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。


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