前回は、WindowsのクライアントOSにおけるフルバックアップ機能について取り上げ、Windows 8.1における機能削除とWindows 10における復活の可能性に言及しました。今回は、サーバー版の「Windows Serverバックアップ」のHyper-V対応における重要な変更点を説明します。
仮想化基盤としてWindows ServerのHyper-Vを運用している管理者の方なら、Hyper-Vの仮想マシンをHyper-Vのホスト側からオンライン(ライブ)でバックアップできることはご存じでしょう。Hyper-Vは最初のバージョンから、もっといえば、前身の「Virtual Server」のときから、仮想マシンのオンラインバックアップに対応しています。
Hyper-Vホストでは、「Hyper-V VSS Writer」に対応した「Windows Serverバックアップ」などのバックアップツールを使用することで、ゲストコンポーネントである仮想マシン側の統合サービスと連携して、ゲストOSの「ボリュームシャドウコピーサービス(Volume Shadow Copy Service:VSS)」を使用したオンラインバックアップを実行することが可能です。
最新のHyper-Vのオンラインバックアップの要件については、以下の公式ドキュメントで説明されています。
具体的には、以下の要件を満たすWindowsゲストの仮想マシンはオンラインバックアップが可能です。
Windows Server 2012 R2のHyper-Vからは、Linuxゲストの仮想マシンのオンラインバックアップもサポートされました(画面2)。
サポート対象のLinuxディストリビューションの多くに対してLinux版の統合サービス「Linux Integration Services(Linux IS)」とともに「Hyper-V VSS daemon」がビルトインまたは追加提供され、Hyper-Vホストからの仮想マシンのオンラインバックアップが可能になっています。LinuxのボリュームがNTFS形式である必要は、もちろんありません。
先ほど紹介した公式ドキュメントでは、オンラインバックアップの要件を満たさない仮想マシンをバックアップした場合、バックアップ中に仮想マシンが保存された状態として一時的に停止され、仮想マシンが配置されたボリュームのボリュームスナップショット(ボリュームシャドウコピー)の作成が完了すると、再び実行状態に戻ると説明されています。Windows Server 2012 Hyper-Vでは、確かにそのように動作します(画面3)。
筆者は今年初めに以下のブログ記事を目にするまで、オンラインバックアップに対応していない仮想マシンがバックアップ中に一時的にオフラインになるという仕様が、最新のHyper-Vでも変わっていないと思っていました。先ほどの公式ドキュメントを見れば、誰もがそう思うでしょう。
オンラインバックアップの要件はおそらく変わってはいません。しかし、Windows Server 2012 R2 Hyper-Vからは、オンラインバックアップに対応していない仮想マシンについても、仮想マシンが一時的にオフラインになることはなくなりました。
これがどういうことなのか、オンラインバックアップに対応していないFreeBSDゲストの仮想マシンで実際に試してみました。
稼働中のFreeBSDゲストの仮想マシンのバックアップを開始すると、仮想マシンの配置先のボリュームのボリュームシャドウコピーを作成するために、仮想マシンに特別な種類のチェックポイント(回復用のチェックポイント)が作成されます。
しばらくして、ボリュームシャドウコピーの作成が完了すると自動的に削除され、バックアップの場所(ディスク)へのコピーが始まります。仮想マシンの稼働時間はチェックポイント作成時にいったんリセットされますが、チェックポイントの作成中もバックアップのコピー中もFreeBSDゲストがオフラインになることはありませんでした(画面4)。
仮想マシンの統合サービスを使用していないため、ゲストのVSSを使用した本来のオンラインバックアップとは仕組みが異なりますが、オンラインバックアップに対応していない仮想マシンも、事実上、オンラインバックアップできるということになります。
Windows Server 2012以前のHyper-Vは、仮想マシンの持つボリュームが全てNTFS形式でフォーマットされたベーシックディスクであるという要件がありました。おそらく、Windowsに関してはこの要件は変わっていないでしょう。
Windows Server 2012 R2では、UEFI(Unified Extensible Firmware Interface)ベースのPCとして動作する第2世代仮想マシンの種類が新たに追加されました。UEFIベースのPCにインストールされるWindowsは、FAT32形式のEFIシステムパーティション(ESP)を持ちます(画面5)。つまり、Windows Server 2012以前のオンラインバックアップの要件を満たしていないということになります。
ゲストOSのボリュームをVSSでバックアップできない場合に、保存された状態にしてオフラインにするのではなく、回復ポイントとしてのチェックポイントを作成する仕様にしたのは、第2世代仮想マシンのオンラインバックアップを可能にするためにも必要だったのではないでしょうか。
ところで、Windows Server 2012 R2 Hyper-Vにおける統合サービスの「バックアップ(ボリュームチェックポイント)」という名称は実におかしな表現です。この機能はVSSの「ボリュームスナップショット」に由来するものなので、「バックアップ(ボリュームスナップショット)」が適切です。実際、Windows Server 2012以前は「バックアップ(ボリュームスナップショット)」という名称でした。
Windows Server 2012 R2 Hyper-Vでは、仮想マシンの状態を保存する「スナップショット(Snapshot)」の機能名がWindows Server 2012 R2で「チェックポイント(Checkpoint)」に変更になりました。これがどういうわけか統合サービスの名称にも影響してしまったようです。
Windows Server 2012 R2の英語版でも「Backup(volume checkpoint)」となっているので、日本語のローカライズの問題ではなく、機械的なテキストの置換でミスが生じたのだと思います。ちなみに、次期バージョンのWindows Server 2016のプレビュー版では、「Backup(volume shadow copy)」に戻っていました(画面6)。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Hyper-V(Oct 2008 - Sep 2015)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。マイクロソフト製品、テクノロジを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。
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